はじめに
一人で会社をやっていると、営業もマーケティングも商品開発もお客さま対応も経理も、全部自分でやることになります。
この状態を「専門性がない」「器用貧乏だ」と感じてしまう方は少なくありません。何か一つを深く極めた人と比べて、自分は中途半端なんじゃないか、と。
でも、一人社長にとって幅広く何でもできることは、事業を回すための土台になります。むしろこの力がないと、一人で会社を続けることはできません。
書いているのは、ソエルコト代表の小南です。2006年に会社を立ち上げ、社員2人から4人の小さな会社を5年経営したのち、一人社長になって16年になります。
私自身、もともと何でも知りたいし何でも自分でやりたい性格なので、ジェネラリストでいることは自然なことで、当たり前だと思っています。
この記事では、ジェネラリストとは何かを整理したうえで、一人社長がジェネラリストを目指すべき理由を5つに分けてお伝えします。
ジェネラリストとは
ジェネラリストは、幅広い分野の知識と経験を持ち、全体を見渡しながら判断や調整ができる人を指します。英語の「general(全体的、全般的)」が語源です。
会社組織のなかでは、営業・企画・人事・経理など複数の部署を経験して組織全体を理解している人や、部署間の調整役、プロジェクト全体を管理する人がジェネラリストと呼ばれます。経営者や管理職を指して使われることも多い言葉です。
スペシャリストとの違い
ジェネラリストの反対にあるのがスペシャリストです。特定の分野を深く掘り下げた専門家で、医師や弁護士、エンジニア、デザイナー、研究者などがこれにあたります。
両者の違いを整理すると、こうなります。
| 比較する項目 | ジェネラリスト | スペシャリスト |
|---|---|---|
| 知識の広さ・深さ | いろんな分野の基本を幅広く知っている | 一つの分野を深く掘り下げている |
| 物事の見方 | 全体を見渡して考える | 専門領域を掘り下げて考える |
| 得意なこと | 全体を見た判断、関係者の調整、変化への対応 | 難しい問題の解決、質の高い成果物、専門的な判断 |
| 弱くなりやすいところ | 一つひとつの知識が浅くなる | 専門の外が見えにくくなる |
| 一人社長にとっての役割 | 事業を回すための土台になる力 | お客さまから選ばれるための武器になる力 |
大事なのは、どちらが上ということではありません。ジェネラリストが全体を見て事業を回し、スペシャリストが専門領域で価値を生み出す。一人社長の場合は、この両方を自分のなかに持つことになります。
「器用貧乏」という言葉について
ジェネラリストがいちばん言われがちなのが「器用貧乏」です。何でもできるけれど、突き抜けた強みがない、という意味ですね。
会社員のキャリアや転職市場では、この見方が当てはまる場面もあります。特定のスキルで評価される場では、幅広さは伝わりにくいからです。
ただ、一人社長の立場ではまったく事情が変わります。事業のすべてを自分で判断し、自分で動かす人にとって、全体が見えていることは弱みではありません。むしろ、全体が見えていないと判断を誤ります。
一人社長にとってのジェネラリストは、「何でも屋」ではなく「事業全体の責任者」です。
一人社長が「最強のジェネラリスト」を目指すべき5つの理由
一人社長が幅広くできることの価値は、次の5つに整理できます。
- 決めるのが速い
- 本当の原因が見える
- 任せ方がうまくなる
- やり方を変えられる
- 事業がぶれない
一つずつお話しします。
理由1:決めるのが速い
全体が自分のなかにあると、判断に他人の合意が要りません。
一人社長には、上司も稟議も社内会議もありません。「これをやろう」と思ったら、その日から動けます。
しかも全体が見えていれば、部分だけを見た判断になりません。「営業的にはいいけれど、制作の手が回らない」「今この投資をすると資金繰りが厳しくなる」といったことを、自分のなかで同時に見て決められます。誰かに確認して回る時間も、部門ごとの意見を調整する時間も要りません。
私の場合、外に営業に行くことは一切ありません。営業電話をしたり、営業メールを送ることもありません。マーケティングを使って、営業ツールになるWebサイトを作り、そこからお問い合わせをいただく形にしています。お問い合わせがあればZoomでお話しして、悩みや課題をしっかり聞いて、できる限りのアドバイスをする。そのうえで必要そうなら自社のサービスをご紹介します。
この流れは、マーケティングもサイト制作も商品設計もお客さま対応も、全部自分でやれるから組み立てられたものです。誰かに相談して決めたわけでもなく、部分ごとに担当を立てたわけでもありません。自分だけで設計して、自分だけで決めた形です。
理由2:本当の原因が見える
事業のつまずきは、たいてい分野の境目に落ちています。
「集客が伸びない」という問題の原因が、実は集客の外側にあることはよくあります。サービスの内容が曖昧だった、価格の見せ方が合っていなかった、問い合わせ後の対応が遅かった。こういうことは、マーケティングだけを見ていても気づけません。
営業もマーケティングも制作もお金の流れも自分で見ていると、「本当のつまずきはここだ」と当たりがつきます。専門家が一人ずつ担当していると、それぞれの持ち場では問題がないのに、全体としてうまくいかない状態が起きます。境目に落ちた問題を拾えるのは、全体を見ている人だけです。
理由3:任せ方がうまくなる
自分が知っている仕事ほど、うまく任せられます。
一人でやっていると、自分以外の手が必要になる場面が出てきます。デザイン、ライティング、コーディング、リサーチ。以前なら外部の専門家にお願いしていた仕事です。いまはAIを使って、かなりの範囲を自分で進められるようになりました。
そこで効いてくるのが、自分がその仕事を知っているかどうかです。
AIに指示を出すとき、幅広く知っていると、いろいろな視点から指示が出せます。デザイナーの視点、ライターの視点、エンジニアの視点。それぞれの立場で何が良くて何が足りないのかがわかるので、指示が具体的になります。上がってきたものを見て、どこを直すべきかも判断できます。
こうしてAIに仕事を任せるようになると、自分の立場はジェネラリストというより、ディレクターに近づきます。そして仕事を知っていれば知っているほど、良いディレクターになれます。
人にお願いするときも同じです。自分がわかっていないと丸投げになり、出てきたものの良し悪しも判断できません。誰にどう任せるかの考え方は、一人会社・小さな会社の社長の右腕は社外にいる!や社長の右腕の探し方でもお話ししています。


理由4:やり方を変えられる
手の内が複数あることが、そのまま選択肢の多さになります。
市場も、お客さまの求めるものも、使える技術も変わります。一つの専門だけで立っていると、その専門の価値が下がったときに動けません。幅広く知っていれば、「じゃあこっちに寄せよう」という判断ができます。
理由1が「速く決められる」話だとすれば、こちらは「変える中身を持っている」話です。決断が速くても、切り替える先がなければ動けません。幅広さは、その切り替え先を用意してくれます。
しかも一人社長は、この方向転換を自分だけで決められます。組織の合意も要りません。変える中身と、すぐ変えられる立場。この両方が揃っているのは、一人でやっていることの利点です。
理由5:事業がぶれない
決めているのが自分だけなので、考えていることがそのまま事業の形になります。
複数の人で事業をやると、どうしても持ち場ごとに考えが分かれます。営業が言っていることとサービスの中身が少しずれる、発信しているメッセージと実際の提供物が微妙に違う。こういうことが起きます。
一人で全部やっていると、このずれが生まれません。何を大事にしていて、誰に向けて、何を届けたいのか。判断しているのが自分だけなので、事業全体に同じ筋が通ります。
私はマーケティングも商品開発もお客さま対応も好きです。マーケティングがうまくいった結果、お客さまがお問い合わせをくださって、その方とお話をして、よかったら自社の商品やサービスを選んでいただく。この流れが好きなんです。経理も嫌いではありません。数字を自分で把握できるので、判断がぶれずに済みます。
好きだから自分でやっているし、自分でやっているから筋が通る。この順番が、一人社長のジェネラリストらしいところだと思います。
幅広さだけでは足りない
ここまでジェネラリストであることの強みを挙げてきましたが、正直に言うと、幅広さだけでは市場で選ばれません。
お客さまがお金を払うのは、自分の困っていることを解決してもらうためです。「何でもできます」と言われても、自分の悩みを解決してくれる人だとは伝わりません。人は、自分の課題を解決してくれる専門家を探しています。
だから必要なのは、幅広さを土台にしたうえで、「これなら誰にも負けない」という部分を持つことです。
いろんなことができて、そのなかで突出した専門性、スペシャリストとして見せられる部分を持っている。これが一番強いと思っています。どちらが優れているかという話ではありません。
幅広さは「浅く広く」ではない
ここで誤解されやすいのですが、幅広くやることと、浅く広くやることは違います。
私は習い事教室・学習塾の生徒募集の仕事で、たくさんの教室の先生とお話をします。バレエ、フルート、ギター、ボーカル、英会話、格闘技。ジャンルはさまざまですが、ジャンルで括れるものではありません。100人の先生と話せば、100通り違います。教室の強みも、生徒さんに伝えるべきメッセージも、全部違います。
つまり、ターゲットを絞って仕事をしていると、同じ領域のなかでどんどん深くなっていきます。一件ごとに違うから、その違いを見る目が育つ。結果として専門性が磨かれます。
知らないことを知るのは楽しいです。
ソエルコトの仕事でも、いろんな会社をやっている一人社長さんとお話ができて、私自身がすごく勉強になります。
好奇心や興味も、もちろん大事です。ただ、興味の向きが絞られているほうが、幅広さと深さが同時に育っていきます。
私の専門性
私の場合は、専門と呼べるものが3つあります。
一つは習い事教室・学習塾の生徒募集です。マーケティングとWeb制作を組み合わせて、教室の生徒集客をプロデュースしています。これまで何百人もの教室の先生とお話をして、生徒募集のお手伝いをしてきました。どのジャンルの教室にも当てはめられる「生徒募集の方程式」も確立していて、いまはこの分野で日本で一番と言っていい位置まで取れています。
二つ目がホームページ作成の指導です。学生時代からWeb制作とWeb運用を30年続けてきました。大手企業や自治体のサイト、アイドルや声優やミュージシャンのサイト、全国の習い事教室のサイトを手がけ、デザインコンテストでグランプリを受賞したこともあります。その経験をもとにホームページ作成教室を開いていて、いまはAIを使ってホームページを作り、成果を上げる方法をお伝えしています。
三つ目が一人社長のパートナーという領域で、これがソエルコトです。数多くの一人社長さんの悩みや課題を一緒に解決したり、右腕としてお手伝いをしてきた経験を活かしていて、ここでもスペシャリストを目指しています。
どれも、幅広くやってきた力の上に立っています。全体が見えるから専門性が仕事になる。この関係は変わりません。
一人社長がどう専門性を作っていくかは、スペシャリストとは?一人会社の一人社長が「唯一無二のスペシャリスト」を目指すべき5つの理由で詳しくお話ししています。この記事と対になる内容です。

まとめ
一人社長がジェネラリストであることは、仕方なくそうなった状態ではありません。事業を自分で動かすために必要な力です。
理由を5つ挙げました。
- 決めるのが速い。全体が自分のなかにあるので、他人の合意が要らない
- 本当の原因が見える。分野の境目に落ちた問題を拾える
- 任せ方がうまくなる。知っている仕事ほど、AIにも人にも的確に頼める
- やり方を変えられる。手の内が複数あることが、切り替え先になる
- 事業がぶれない。決めているのが自分だけなので、考えていることがそのまま事業の形になる
そのうえで、幅広さだけでは選ばれません。土台の上に、自分の専門性を立てること。この両方を持っているのが、一人社長にとって一番強い形だと思います。
自分の強みが見えなくなっているなら
一人で全部やっていると、自分が何を強みにしているのかが見えにくくなります。目の前の仕事に追われて、全体を見る時間が取れないこともあります。
ソエルコトでは、一人社長のための「課題発見セッション」を行っています。
いまやっていること、これまでやってきたこと、これからやりたいことを話していただくなかで、ご自身では気づいていなかった強みや、次にやるべきことが見えてくることがあります。こちらから答えを押し付けることはしません。一緒に整理して、あなた自身の答えに気づくための時間です。
無料相談会ではありません。無理な勧誘も一切しません。一人で考えていると見えなくなってきたと感じたら、一度話してみてください。

