「同じ規模の会社をやっていた人なら、わかってくれるはず」
一人会社や小さな会社の社長が右腕を探そうとすると、かなりの確率でこの仮説にたどり着きます。同じくらいの規模の会社を経営してきた人なら、自分の苦しさもわかってくれるはずだ、と。
先に言ってしまうと、この仮説は半分当たっています。ただ、当たっている部分と取り違えやすい部分がきれいに分かれていて、そこを混ぜたまま探し始めると、経歴は申し分ないのにまったく噛み合わない相手を選ぶことになります。
以前の記事「一人会社・小さな会社の社長の右腕は社外にいる!」では、右腕を社内で雇うのではなく社外に持つという話を書きました。

この記事はその続きにあたります。社外に持つと決めたあと、では誰に頼むのか。何を基準に選ぶのか。
書いているのは、ソエルコト代表の小南です。2006年に友人と会社を立ち上げ、社員2人から4人の小さな会社を5年経営したのち、一人社長になって16年になります。それと並行して、他社の社長の社外の右腕としても動いてきました。そのためこの記事は、右腕を選ぶ側の話というより、選ばれてきた側から見えたことが中心になります。
社長が右腕に求めているのは、正しい答えだけではない
右腕がほしいと思うとき、足りていないのは作業の手だけではありません。
戦略も、お金も、優先順位も、この先どうなるかという不安も、全部一人で抱えたまま、目の前の仕事も回している。その状態で本当に必要なのは、タスクを引き取ってくれる人よりも、本音を出せる相手であることのほうが多いはずです。
中小企業診断士や商工会に相談して、返ってきた答えにどうしても満足できなかった、という話をよく聞きます。私も同じ感覚を持っています。内容が間違っているわけではありません。ただ、頭で考えた答えになっている。
辛い、しんどい、焦っている、それでもやりたい、変えたい、叶えたい。社長が抱えているのはこういう感情で、助言を受け取る側の心はここにあります。この部分を汲み取れないまま正論だけを渡されると、正しいのに動けません。
逆に、右腕として関わっていて「いま届いているな」と感じるのは、いつも同じ場面です。本音を包み隠さず、恥ずかしがらずに話してくれているとき。弱音をこぼしてくれたとき。夢や目標を熱く語ってくれているとき。お金や健康の話まで隠さず出してくれたとき。
社長が右腕に求めているのは、この心の内を受け止められる相手です。そして、それができるのは誰かと考えていくと、「社長経験者に頼めばいいのではないか」という仮説にたどり着きます。
社長経験者という仮説の、当たっている半分
同じ沼を通った人にしかできない話がある
社長の辛さや悩みを本当の意味で理解できるのは、社長経験者だと思っています。しかも、できるだけ規模感の近い会社を経営した人。
山があり、谷があり、沼がある。その沼に自分の足を突っ込んだことがある人にしかできない助言があります。資金繰りが頭から離れない夜の重さ、給料日が近づいてくる感覚、本当にまずいときほど誰にも言えなくなること。これは知識ではなく体感なので、通った人とそうでない人で会話の深さが変わります。
ですから、社長経験者だから危ないという話ではありません。むしろ、規模の近い経営経験があること自体は、右腕としてかなり大きな武器になります。私が他の社長の右腕として動けているのも、社長をやってきた経験から語れる部分が大きいと感じています。
取り違えやすい半分
危ないのは、経営経験があれば右腕として機能するはずだ、と思ってしまうことです。
経営経験は心の理解に効きます。ただ、それは資格ではありません。右腕に必要なのは自分と同じ判断ができる人ではなく、自分に足りないところを埋めてくれる人です。同じタイプの意思決定者を二人並べても、判断が速くなるとは限らない。むしろ、どちらの方針で進むのかがぼやけます。
ちなみに私自身は、社長経験者を自分の右腕にしたことはありません。私の場合は逆の立ち位置で、社長をやってきた経験を持ったまま、他の社長の右腕に入っています。同じ経験を持つ人を隣に置くのではなく、同じ経験を持つ人が別の役割で入る。この違いは小さくないと思っています。
自分の複製ではなく、欠けているところを埋める相手
同じ強みを持つ二人が組んでも、できることはあまり増えません。足し算より大きくなるのは、違う強みを持った二人が組んだときです。よく知られているのは本田宗一郎さんと藤沢武夫さんの関係で、技術を生み出す側の隣に、それを事業として成り立たせる側がいました。もう一つエンジンを増やしたのではなく、エンジンを載せる車をつくれる人と組んだわけです。会社の規模が小さくても、見るべき構造は変わりません。
私の場合、得意なのは社長が描いたビジョンを形にすることです。ディレクター、プロデューサーとして、クライアントのビジョンやミッション、抱えている課題を実際の成果物や仕組みに変える仕事を長くやってきました。思いつきのままで止まっている構想を、動くところまで持っていく作業です。
一方で、私は成功者ではありません。だから成功の方法を教えることはできません。その代わりに、社長と同じ熱量で自分ごととして考えることはできます。Web運用のプロとして、AI活用の先輩として、一人社長の先輩として、それなりに引き出しを持った相手として、隣で走ることはできます。
右腕を探すときも、見るのはここだと思います。相手の肩書きが立派かどうかではなく、自分の空いているところに入る人かどうか。
まず自分側の棚卸しから始めるほうが早いです。
- 自分は全体像を描く側か、細部を形にする側か
- 強みは集客や営業か、制作や技術か、運用や改善か
- 新しく始めるのが好きか、あるものを整えるのが得意か
- 重要だとわかっているのに、いつも後回しにしている仕事は何か
- いま、反対意見をくれる相手はいるか
四つ目の質問が、いちばん正直に出ます。後回しにしている仕事の中身が、そのまま必要な右腕の姿になっていることが多いです。
そのうえで、どの機能をどのレベルで埋めてほしいのかを具体にしていきます。
| 会社の機能 | 自分の得意・苦手(A〜F) | 相手に求めるレベル | 任せ方の例 |
|---|---|---|---|
| ビジョン・方向づけ | 例:A | B〜Cで十分。話を聞いて言葉にできれば足りる | やりたいことを計画の形に整理してもらう |
| お金・数字 | 例:D | Aが必要 | 資金繰りの見通し、価格設計、投資判断の相談相手 |
| 仕組み・段取り | 例:C | A〜Bが必要 | 業務の型づくり、進行管理、抜け漏れを防ぐ |
| 集客・マーケティング | 例:B | Aが望ましい | 集客の設計と実行、数字を見ながらの改善 |
| Web・AI活用 | 例:C | A〜Bが必要 | サイト運用、ツール選び、AIの使い方の型づくり |
| 専門技術・商品づくり | 例:A | B〜Cで十分 | お客様の声を集めて商品改善につなげる |
「誰か助けてほしい」のまま探し始めると、なんとなく優秀な人に行き当たって終わります。お金の見通しは自分がDランクだからAランクで見てほしい、ビジョンの言語化は自分でやるからBランクでいい、というところまで落ちていれば、探す相手も声のかけ方も具体になります。
実際のところ、右腕はどう選ばれているか
ここからは、選ばれてきた側の実感を書きます。
私の仕事の入口はさまざまです。習い事教室や学習塾の生徒募集プロデュースで、まずホームページを作り直して生徒を集めるところから始まり、そのまま長い付き合いになっていくケース。Web制作やWeb運用から入り、いつのまにか事業の内側まで一緒に考えるようになるケース。一人社長仲間としての付き合いから仕事に発展するケース。ソエルコトの課題発見セッションで壁打ちをしたところから始まるケース。
入口はばらばらなのですが、選んでいただくときの流れはよく似ています。
最初にあるのは、求めていた効果や成果を実際に体感してもらうことです。話が上手いかどうかではなく、頼んだことが形になって数字が動く。そこに、本音で何でも話せる相手だという安心感、何を話しても大丈夫だという感覚が重なったときに、右腕としての関係に変わっていきます。
いきなり全部任せますという話にはなりません。小さく成果を出し、弱音も夢もお金の話も出せる空気ができて、そこから深くなる。段階を踏んだ先に信頼があります。
技術力や実績もあります。会社員時代から、仕事をしたクライアント企業の役員の方に、うちに来てほしいと言われることがよくありました。条件まで提示されたこともあります。ただ、技術力や実績だけで選ばれているとは思っていません。
私はどんなに立場が上の人に対しても、伝えるべきことは伝えます。相手にとって耳の痛い話もします。それで社長さんに気に入られることが多い。都合よくうなずくだけの相手には、たぶん本音は預けないのだと思います。噛みつくところは噛みつく(甘噛みですが)、それでも関係は壊れない。右腕に求められているのは、正しさを押し通すことではなく、相手の心を開いたまま必要なことを言えることだと思っています。
一緒に走れる相手には、条件がある
私の側にも、一緒に仕事ができる相手の条件があります。
ひとつは、主従関係ではなくパートナーシップになれること。発注者と業者の関係のままだと、事業の内側までは踏み込めません。もうひとつは熱量です。私は相手と同じ熱量で動くので、熱量の低い相手だと私も熱量を出せません。これは能力の問題ではなく、噛み合うかどうかの問題です。
右腕を探す側も、同じところを見てもらえればいいと思います。
- 求めていた成果を実際に出せる相手か
- 弱音も、夢も、お金の話も出せる安心感があるか
- 反対意見を、関係を壊さない形で言ってくれるか
- 発注者と業者ではなく、同じ目線で考えてくれるか
- 熱量が合うか
経歴のきれいさより、この五つのほうが外れにくいです。社長経験があるかどうかは、このうち本音を出せるかどうかと、同じ目線で考えられるかどうかに効きます。効くのはそこまでで、それ以上ではありません。
どこで見つけるか
社外に右腕を持つと決めたとき、候補は思っているより広くあります。
- 同じ立場の経営者
規模の近い一人社長や小さな会社の社長。資金繰りやプレッシャーの話がそのまま通じます。ただし利害が絡む相手だと本音は出にくく、相手の時間を継続的に確保するのも難しい。 - 少し大きな組織で実績を出している人
裁量を求めて動こうとしている人は、体系的な経験を持ち込みつつ柔軟さも残しています。 - 自分が持っていない領域の専門家
制作出身の社長がお金や仕組みに強い人と組む、その逆もあります。表で洗い出した弱い領域に直接当てにいく形です。 - 支えることが本業の人
自分がトップに立つことより、社長を勝たせることに面白さを感じる人がいます。右腕としての適性はいちばん高いタイプです。 - 伴走型の外部パートナー
常勤で雇うのが難しい規模でも、テーマを絞れば右腕の機能は成立します。数字まで共有できる関係になれるかどうかが分かれ目です。 - AIパートナー
日々の思考の整理や壁打ちには十分に効きます。ただし事業の歴史や価値観を持ち越せる仕組みがないと、毎朝はじめて会う優秀な新人が来る状態になります。育て方は「AIパートナーを何でも相談できる右腕に育てる」に書きました。

人の右腕とAIの右腕は役割が違うので、どちらかを選ぶ話ではありません。深く踏み込む判断は人と、日々の整理はAIと。組み合わせれば、社員を雇わずに右腕の機能はかなり揃います。
選んだあとは、任せ方で結果が変わる
相手を決めたあとにうまくいかない原因は、相手側だけにあるわけではありません。任せたのに決定を覆す、細かく口を出す、逆に丸ごと投げる。このどれかをやると、パートナーシップにはなりません。
意識することは四つだけだと思っています。やり方ではなく成果を任せること。任せた範囲の判断を、他の人がいる場でひっくり返さないこと。言いたいことがあるなら二人だけのところで話します。自分と違う進め方でも、結果が出ているなら手を入れないこと。そして、最終的な責任は社長が持つこと。
同じ相手と組んでも、ここが守れているかどうかで結果は変わります。
まとめ
同じ規模の社長経験者が最高の右腕だという仮説は、半分正しくて、半分足りません。
正しいのは、規模の近い経営経験が心の理解に効くという部分です。頭で考えた答えでは届かないところに手が届く。足りないのは、自分と同じ人を隣に置いても、空いているところは埋まらないという部分です。
見るべきなのは、心の内を汲めるか、自分に足りないところを埋めてくれるか、本音を出せる安心感があるか、伝えるべきことを伝えてくれるか、同じ熱量で走れるか。社長経験の有無は、このうちのいくつかを満たしやすいという話にすぎません。
右腕探しは、相手を探す作業のように見えて、実際には自分の弱いところと向き合う作業でもあります。何が空いているのかがわかれば、探す相手はかなり具体になります。
一人で全部やらなくていい。ただ、誰でもいいわけでもありません。この二つを持ったまま探すのが、遠回りに見えていちばん早い道だと思います。
一人で考えていること、一緒に整理しませんか?
自分に足りないのは何か、どんな相手と組むべきか。これを一人で判断するのは、意外と難しいものです。
頭の中がまとまっていなくても大丈夫。何を相談したらいいか分からなくても大丈夫。
まずは、あなたの話を聞かせてください。
ソエルコトの課題発見セッションは、私が答えを出す時間ではありません。一緒に話をしながら、今どんな状態なのか、何が本当の課題なのか、次に何をすればいいのか。それを整理していく時間です。
話しているうちに、自分でも気づいていなかった考えや、本当にやりたいことが見えてくることも少なくありません。
- 形式
オンライン(Zoom)・45分(目安) - 料金
初回限定 3,300円(税込)/2回目以降 9,900円(税込)
課題発見セッションは、ソエルコトのサービスを紹介したり販売するための無料相談会ではありません。本当に必要としてくださる方と、一人ひとり丁寧に向き合うための時間です。そのため、有料としています。
無理な勧誘はしません。相性が大切だからです。まずはお話ししてみましょう。

