はじめに
「一人会社 リスク」と検索すると、たくさんの記事が出てきます。倒れたら事業が止まる、孤独で判断を誤る、過労死ラインを超えている、属人化して引き継げない。どれも間違ってはいません。ただ、一人社長として16年やってきた実感とは、ずいぶん温度が違うと感じます。
書いているのは、ソエルコト代表の小南です。2006年に会社を立ち上げ、社員2人から4人の小さな会社を5年経営したのち、一人社長になって16年になります。
この記事では、よく言われる一人会社のリスクを一つずつ取り上げて、実際にやってきた立場から仕分けていきます。これは本当に来る、これは正直そこまででもない、これはどうしようもないから淡々とやるしかない。そんな分け方です。転ばぬ先の杖として読んでいただければと思います。
一人会社の最大のリスクは、一人であることです
いろいろなリスクが語られますが、突き詰めると、行き着く先は一つです。
一人であること。
倒れたら止まるのも、相談相手がいないのも、キャパに天井があるのも、全部ここから出てきています。ということは、リスクを本当に回避しようと思ったら、一人じゃなくなるしかない、という話になります。
もちろん、それができるなら苦労はありません。人を雇うのは簡単な決断ではないですし、一人でやることを選んでいる人も多いはずです。私自身、今の形が一番やりやすいと思っています。
だからこの記事は、一人であることを変えろという話ではありません。一人のままで、何が本当に効いてくるのか、どこまで備えておけばいいのかを整理していきます。
よく言われるリスクは、実際のところどうなのか
検索して出てくる一人会社のリスクは、だいたい次のようなものです。
- 倒れたら事業が止まる
- 過労・長時間労働
- 孤独で相談相手がいない
- 全部自分でやるのでキャパに天井がある
- 資金繰りが不安定
- 税金・社会保険の負担と手続き
- 信用されにくい
- 有限責任といっても、実際は個人保証
- 属人化して引き継げない
- 家庭やプライベートが犠牲になる
一つずつ見ていきます。
倒れる・病気は、思っているほど多くない
一人社長は、案外倒れません。強いというより、いつも気を張っているからだと思います。代わりがいないことを自分が一番わかっているので、無意識のうちに、そこだけは守っているのだと思います。周りの一人社長を見ていても、そういう人が多いです。
もちろん、万が一に備えることは大事です。ただ、「倒れたら終わり」という恐怖を煽られて、そこに引っ張られすぎる必要はないと思っています。備えの話は後半に書きます。
属人化は、なくす方向で考えても意味がない
一人会社の仕事が属人化するというのは、誰がどう考えても当たり前の話です。100%属人化しています。社長本人しか知らないことばかりです。
だから「属人化させないようにしましょう」と言われても、どうしようもありません。むしろ、会社のノウハウや技術情報、顧客情報を全部誰かと共有するほうが、私はリスクだと思っています。すべてを公開情報にするわけにはいきません。
属人化はなくすものではなく、前提として受け入れたうえで、必要最低限だけ外に出せる形にしておく。現実的な落としどころはそこだと思います。
過労死ラインは、当てはめたらとっくに死んでいる
月80時間の時間外労働が過労死ライン、とよく言われます。ただ、一人社長にこれを当てはめたら、みんなとっくに死んでいることになります。
月に400時間近く働くことも、珍しくはないと思います。そもそも時間外労働という概念も、労働基準法の保護も、社長には関係ありません。だから、この数字を持ち出して怖がらせても意味がないと思っています。
問題は時間の長さそのものではなく、休みたいのに休めない状態が続くことです。休みたいなら、休む方法を考えて、時間を作る動きをしていくしかない。これについては一人会社や小さな会社の社長に休みがないのは当たり前?に詳しく書きました。

孤独は、相談できる人を見つければいい
一人で決めるのが不安、誰にも相談できない。これはよく言われますし、実際そのとおりです。
ただ、これは「一人だから解決できない問題」ではありません。相談相手がいないなら、相談できる人を見つければいい話です。社外の人でも、同じ立場の経営者でも、専門家でもいい。社内にいないことと、どこにもいないことは違います。
一人社長の壁打ち相手については一人社長さん、その悩み、ひとりで抱えていませんか?にまとめています。

キャパの天井は、やり方を変える話
仕事が増えて手が回らなくなる。これは確実に来ます。ただ、これも「一人だから成長が止まる」という話ではなく、やり方を変えるタイミングが来たという話です。
受ける仕事の内容を変える。専門性を打ち出して単価を上げる。自動化する。仕組み化する。AIを徹底的に使う。打ち手はいくつもあります。
なお、「一人会社には年商3000万円の壁がある」といった数字がよく引き合いに出されますが、根拠がはっきりしないので、この記事では扱いません。壁を感じるかどうかは、事業の中身と単価の設計次第です。単価の考え方については一人社長の見積書は時給ベースから価値ベースへを参考にしてください。

どうにもならないものは、淡々とやるしかない
税金と社会保険の負担は、どうにもなりません。一人社長でも社会保険は必要ですし、税金の義務もあります。ここは淡々とやる領域です。
手続きの煩雑さもよく挙げられますが、自分でもできます。誰かにお願いしたところで、浮く手間は知れています。
一人会社は信用されにくい、という指摘もあります。これはある意味そのとおりです。ただ、答えはシンプルで、法人化して、実績を積んで、専門性を磨いて、魅力的なサービスを作って、信用と信頼を積み上げていくしかありません。そこは淡々と、粛々とやっていくだけの話です。
法人格そのものにも、メリットはあります。そもそも法人でなければ取引してもらえないことも多く、信用の第一歩になると思っています。個人事業主と一人会社の違いは、次のとおりです。
| 項目 | 個人事業主 | 一人会社 |
|---|---|---|
| 責任の範囲 | 無限責任。事業の借金は個人資産で返済。 | 原則、有限責任。しかし個人保証で事実上の無限責任になることも。 |
| 設立コスト | ほぼゼロ。 | 株式会社で約25万円、合同会社で約10万円程度。 |
| 運営コスト | 赤字なら所得税・住民税はゼロ。 | 赤字でも法人住民税(最低約7万円)が発生。社会保険料の負担も重くなりがち。 |
| 会計・税務 | 比較的シンプル。 | 非常に複雑。税理士への依頼が一般的。 |
| お金の自由度 | 高い。事業資金と個人資金の区別が緩やか。 | 低い。会社のお金は私的に使えず、固定の役員報酬で受け取る。 |
| 社会的信用度 | 法人より低いと見なされがち。 | 高い。取引や融資で有利になる傾向。 |
| 事業の終了 | 廃業届一枚で比較的簡単。 | 解散・清算手続きが必要で、費用と時間がかかる。 |
有限責任も、実際には融資を受けるときなどに個人保証を求められることが多く、そこだけ見れば個人事業主と変わりません。ただ、これは法人化しないほうがいいという話ではなく、そういうものだと理解して借りるかどうかを決める、という話だと思っています。
資金繰りについては、正直きれいごとは言えません。事業がうまくいっているときは、いくらでも理想を語れます。でも、お金がないときは、死にもの狂いで働くしかありません。起きている時間を全部仕事に使うようなことになりますし、それも相当なプレッシャーの中でやることになります。ここは覚悟しておいたほうがいい部分です。
家庭との両立は、何を大事にするかの問題でもある
仕事ばかりしていると、頭の中が会社のこと、仕事のことでいっぱいになります。そうなると、家庭との両立は成り立たなくなります。
これは一人社長に限った話ではありません。社長という立場でいる限り、会社をどうしよう、事業をどうしよう、今月の資金繰りをどうしようと、いつも考えています。どうしても家庭やプライベートは後回しになります。
無理にそちらを頑張ろうとしても、ストレスが溜まるだけということもあります。結局これは、本人が何を大事にするかという考え方の問題でもあると思っています。バランスを取りたいと思っているなら取れますし、そもそもバランスを取ろうと考えていない人も、実際には多いのではないでしょうか。
犠牲にしていることを自覚したうえで選んでいるのか、気づかないまま流されているのか。その違いは大きいと思います。
それでも、倒れたら事業は止まる
ここまで「そこまで怖がらなくていい」という話を続けてきましたが、結局のところ、自分が倒れたら事業は止まります。これは事実です。
大事なのは、そのときにクライアントやお客さんに迷惑をかけないよう、できるだけ準備しておくことだと思っています。私が最低限だと考えているのは、次の3つです。
- 本当に困ったときに、自分の代わりに対応してくれる人を作っておく
すべてを任せられる人という意味ではありません。連絡を受けて、状況を伝えてくれるだけでも違います。 - 何をどうすればいいのかの手順を残しておく
進行中の案件、取引先、支払いの予定。頭の中にしかないものを、最低限だけでも外に出しておきます。 - ログイン情報と連絡先を、紙にまとめて置いておく
最近はあらゆるサービスにログインが必要です。ユーザーIDとパスワードが誰にもわからない状態は、それだけで事業が止まります。
3つ目について補足しておくと、パスワードや連絡先をパソコンやスマホの中だけにまとめている人は多いと思います。ただ、それだと本人が開けない状態になった時点で、誰も中に入れません。
ノートのような形で、外に出しておくことをおすすめします。中身は、家族が見て理解できなくても構いません。「これがある」ということさえ伝わっていれば、わかる人が見ればわかりますし、そのまま作業を手伝ってもらえます。右腕になるパートナーに渡せば、そっくり引き継いでもらうこともできます。
自分の代わりは絶対にいませんし、自分とまったく同じことをしてくれる人を作れるわけもありません。そこは割り切りが必要です。完璧な引き継ぎ体制を目指すのではなく、最低限どこまで備えておくか、という話だと思います。
右腕パートナーがいれば、任せられる範囲は大きく変わる
ただ、いざというときだけ頼む相手と、普段から一緒に仕事をしている相手とでは、任せられる範囲がまったく違います。
右腕になるパートナーがいて、日頃から一緒に動いていれば、権限さえ渡してしまえば大体のことは任せられます。案件の中身も、お客さんとのやり取りも、進め方も、すでに共有できているからです。急に説明する必要がありません。
社内に右腕がいなくても構いません。私は、一人会社の右腕は社外にいると思っています。この話は一人会社・小さな会社の社長の右腕は社外にいる!と社長の右腕の探し方に書きました。


元気なうちに、動かなくても収入が入る形を作っておく
もう一つ、これが一番大きな備えかもしれません。自分が働けなくなったときにも収入を得られる仕組みを、元気なうちに作っておくことです。
労働集約型の仕事ばかりだと、倒れた瞬間に収入はゼロになります。自分が動いた分だけがお金になる働き方なので、動けなくなれば止まります。
でも、仕組みで稼げる形になっていれば、誰かに少し手伝ってもらうだけで収入をキープできます。金額としては、毎月30万円ほどでも構わないと思います。自分が動かなくてもそれだけ入ってくるなら、万が一倒れても生きてはいけます。
これは倒れたときのためだけの話ではなく、休みを取れるようにする話とも、単価や事業のつくり方の話ともつながっています。フロー収入とストック収入の組み立て方は一人会社・一人社長の年収1000万円計画に書きました。

大口のクライアントに依存しない
収入が止まるのは、自分が倒れたときだけではありません。大口のクライアントに依存した形で経営していると、そこを失った瞬間に会社が傾きます。
やっかいなのは、大口の案件ほど何年も続いていることです。続いているから安心してしまう。よく考えれば、いつか失うかもしれないと思えるはずなのに、やっている最中はそんなことを考えません。来月も再来月も来年も、同じ収入が入ってくるつもりでいます。
そして、失うときは突然訪れます。来月から急に収入がなくなる、ということが実際に起きます。私自身、月額27万円をいただいていたコンサルの案件を失ったとき、月額40万円をいただいていたアフィリエイト案件を失ったときは、大きなダメージを受けました。
売上の柱が一本しかない状態は、自分が倒れるのと同じくらい危ない状態だと思っています。すぐに分散できるものではありませんが、今どれくらい一本足になっているかは、把握しておいたほうがいいです。
お金の面での備えについては一人社長のための万が一の保険にまとめています。

AI社員がいても、自分が動けるかどうかで変わる
最近は、AIをパートナーとして仕事を回す方法もあります。私自身、今はほとんどの仕事をAIと一緒に進めていますし、一人でできることは大きく増えました。
ただ、これも万能ではありません。AIパートナーをいくら作っていたとしても、倒れた自分がどこまで動けるかによります。
パソコンが使えて、AIエージェントを動かせる状態なら、仕事はほぼ回ります。でも、パソコンも開けない状態なら、指示を出せません。指示が出せなければ、何も動きません。
そうなったときは、自分で連絡するのか、家族などに連絡してもらうのかはわかりませんが、頼れる人を作っておいて、そこに連絡する以外にありません。結局、一つ前の章で書いた備えに戻ってきます。
AIをどう仕事に組み込んでいるかは一人会社の時代が来た。AI社員の時代が来た。と一人社長のAI活用術に書いています。


一人であることは変えられなくても、一人で抱える必要はない
一人会社のリスクは、一人であることに集約されます。そして、一人であることをやめない限り、この前提は変わりません。
でも、一人でいることと、一人で抱えることは別です。
相談できる人を見つける。困ったときに動いてくれる人を作っておく。手が回らなくなったらやり方を変える。どれも、一人のままでできることです。
一人社長は、みんな頑張っています。自分で決めて、自分で動いて、自分で責任を背負っている。それでも、全部を一人で持つ必要まではないと思っています。
頭の中がまとまっていなくても大丈夫です。何を相談したらいいかわからなくても大丈夫です。
まずは、今どんな状態なのかを聞かせてください。
ソエルコトの課題発見セッションは、私が答えを出す時間ではありません。一緒に話をしながら、今どんな状態なのか、何が本当の課題なのか、次に何をすればいいのか。それを整理していく時間です。
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初回限定 3,300円(税込)/2回目以降 9,900円(税込)
課題発見セッションは、ソエルコトのサービスを紹介したり販売するための無料相談会ではありません。本当に必要としてくださる方と、一人ひとり丁寧に向き合うための時間です。そのため、有料としています。
無理な勧誘はしません。相性が大切だからです。まずはお話ししてみましょう。

