はじめに
「ワンマン経営」と聞いて、いいイメージを持つ人はあまりいないと思います。人の意見を聞かない、イエスマンに囲まれた裸の王様、自分の都合で会社を振り回す。だいたいそういう文脈で使われる言葉です。
ビジネス書やセミナーでも、風通しのいい組織、ボトムアップ、全員参加の意思決定といった言葉が推奨されます。私もそれを信じていました。信じていたどころか、それを会社の売りにしていました。
結果、会社は傾きました。
この記事を書いているのは、ソエルコト代表の小南です。2006年に合同会社を設立し、2008年に株式会社へ組織変更。社員2人から4人の小さな会社を5年経営したのち、一人社長になって16年になります。
私はワンマン経営者ではありません。むしろ、その真逆をやって失敗した側です。だからこの記事は、成功者の武勇伝ではありません。社員が数人いる小さな会社で、社長が決めきれないと何が起きるのかを、自分の失敗として書きます。
これから人を雇う方、いま数名の社員と走っている方に読んでいただきたい内容です。
私は「みんなで決める会社」を作って、会社を傾かせました
社員満足度向上を、ホームページに掲げていました
当時の私の会社は、ワンマンとは正反対でした。
物事はみんなで決める。みんなで作っていく。給与も全員同じ。「社員満足度向上への取り組み」を掲げて、それをホームページにも載せていました。
それで良い会社が作れると本気で思っていました。チームワークが最高の状態になって、みんなが気持ちよく働ける。そういう会社が強いはずだと。
私らしいと言えば、私らしい発想です。ただ、それが仇になることのほうが、はるかに多かった。
誰よりも考えているのに、自分の意見が通らない
会社のことを一番深く考えているのは、間違いなく自分でした。売上のことも、来月の支払いのことも、三年後の姿も、寝ても起きても考えている。それでも、私の意見は通りませんでした。
みんなで決めるので、意見が割れれば折衷案になります。折衷案は、たいてい中途半端な企画になります。誰も強く反対しないけれど、誰も本気にならない、そういう企画です。
多数決で決めれば、私がやりたいことは却下されます。社長と社員は、そもそも立っている場所が違うので、考え方も違って当たり前です。3人いれば1対2、4人いれば1対3に分かれます。この構図は、人数が増えるほどはっきりしていきました。
すぐに始めたいことも、すぐには始められません。反対されて、そのまま消えた企画もあります。
あのときのモヤモヤした感覚は、正直に言うと今も残っています。
押し切れなかった一つの判断から、崩れ始めました
決定的だったのは、代理店から受けていた下請けの仕事です。
華やかな仕事ではありません。ただ、その仕事があるから食べていける。給与を払える。会社を続けるために絶対に必要な仕事でした。
それを抑える方向に話が進み、私は押し切ることができませんでした。必要だとわかっていたのに、続けると言い切れなかった。
そこから会社の崩壊が始まりました。
同じ構造の問題は、他にもいくつも起きています。私が取ってきた仕事を社内でやってもらえず、やむを得ず外注に回して利益がほとんど残らなかったこと。社員の負担が大きいという理由で、始められなかった新規事業があったこと。
どれも、悪意があって起きたことではありません。それぞれの立場から見れば、まっとうな意見でした。ただ、会社全体の重さを背負っているのは私だけで、その私の判断が通らない仕組みになっていた。それだけの話です。
小さな会社で、ワンマンが機能する三つの理由
失敗を経て思うのは、創業期や数名規模の会社には、合議に耐える体力がないということです。
理由1:スピードが、ほとんど唯一の武器だから
創業期の会社にとって、時間は資金と同じくらい直接的な資源です。お金は減っていくし、思いついたことは他社も思いつきます。
この段階で必要なのは、議論を尽くすことよりも検証することです。この機能は要るのか。この営業先は当たるのか。答えは会議室ではなく市場にあります。
一日でも早く市場に問いかけるには、決めて動ける体制でなければなりません。「責任は私が取るから、やってみよう」と言える人が一人いるだけで、会社の動き方は変わります。私が言えなかったのが、この一言でした。
理由2:想いは、みんなで丸めると消えるから
創業期の会社に人や資金が集まるのは、待遇が良いからではありません。社長本人が持っている、理屈を超えた熱量に人が反応するからです。
この熱量は、データや議論からは生まれません。「こういう状態を作りたい」という、個人的で偏った想いが出発点になります。
そして、この種の想いは、民主的なプロセスの中で確実に丸まります。角が取れて、通りやすい形になって、最後には誰の想いでもなくなる。私の会社に折衷案が並んでいったのは、これが起きていたからです。
自分勝手だと思われるくらいビジョンにまっすぐであることが、この段階では強みになります。
理由3:文化は、社長の判断の積み重ねでできるから
社員が数名の会社に、整った規則はありません。ではメンバーは何を基準に動くのか。社長の判断そのものが基準になります。
お客様への対応をどこまで丁寧にやるのか。品質のどこは絶対に妥協しないのか。挑戦した失敗をどう扱うのか。こうした一つひとつの判断の積み重ねが、そのまま会社の文化になっていきます。
ここを合議で決めると、文化は輪郭を持ちません。誰も反対しない、当たり障りのない方針だけが残ります。
外から社長を見るようになって、考えが変わりました
一人社長になってからの16年、私は他社の社長のパートナーとして、社外から会社の内側を見てきました。
そこで気づいたことがあります。私がお付き合いしている社長は、だいたいワンマンです。
社員の話はよく聞くけれど、最終的には自分の考えを通す社長。中には、社員に意見すら求めない、絵に描いたようなワンマン社長もいます。
社員がそれをどう感じているかは、正直わかりません。全員が満足しているとは思いません。ただ、外から見ていて確かなことがあります。その会社は動いていて、正しい方向に向かっている感覚があるのです。
考えてみれば当然かもしれません。責任を負っているのは社長です。借入の連帯保証にサインするのも、給与を用意するのも、事業を畳む判断をするのも社長です。誰よりも長く、深く会社のことを考えている人が決定権を持っている。それは筋が通っています。
もう一つ、今だから言える自分の考えを書いておきます。多数決で決めると、大体失敗します。
多数決は、一番リスクの低い選択肢が残る仕組みです。尖ったものは削られ、面白いものは通りません。そして誰も責任を負っていないので、うまくいかなかったときに引き返す力も働きません。このあたりは別の記事に詳しく書きました。

ワンマンでいい。ただし、線はここにあります
ここまで読んで、「じゃあ好きにやっていいんだ」と受け取ってほしくはありません。
私が失敗したのは決めきれなかったからですが、決めきることそのものが正解になるわけでもありません。同じ「社長が決める」でも、中身が違えば結果は変わります。
そこで、悪いワンマンと最高のワンマンを分けるものを、四つの観点で並べておきます。
| 観点 | 悪いワンマン(裸の王様) | 最高のワンマン(偉大な創業者) |
|---|---|---|
| ① 目的 | 私利私欲 会社の資産を私物化し、自分のエゴや感情で意思決定する。 | 強烈な「公」の意識 会社を社会の公器と捉え、個人の利益を超えた大義のために行動する。 |
| ② 情報収集 | 裸の王様 イエスマンで周囲を固め、耳の痛い情報を遮断する。学ぼうとしない。 | 誰よりも聞く耳を持つ 意思決定は一人でも、インプットは全方位から。あえて反対意見を歓迎する。 |
| ③ 責任 | 責任転嫁 成功は自分の手柄、失敗は部下のせいにする。 | 最終責任の覚悟 すべての失敗の責任を自分が負う覚悟がある。「責任は私が取る」が口癖。 |
| ④ 軸 | ビジョン不在 その場の感情や損得で判断がブレる。場当たり的で一貫性がない。 | 揺るぎないビジョンと価値観 明確な哲学があり、何を行い、何を行わないかの判断基準がブレない。 |
意思決定の見た目は、どちらも同じ「社長が決める」です。違うのは、何のために決めているか、決める前にどれだけ聞いているか、失敗したときに誰が責任を持つか、判断の軸がぶれていないか。この四点だけです。
この分かれ目については、次の記事でもっと踏み込んで書いています。自分がどちら側に寄っているか点検したい方は、こちらを読んでください。

決めきる社長になるために、私がやっておけばよかったこと
失敗した側から、具体的に書きます。
決める前に、全員から聞く。
聞くことと、決を採ることは別です。私はここを混同していました。意見は全員から集めていい。むしろ集めたほうが判断の質は上がります。ただ、集めた意見を多数決にかけた時点で、社長の仕事は終わってしまいます。
決めた理由を、言葉にして伝える。
「決めたから従ってくれ」だけでは、納得は生まれません。なぜこの判断にしたのか、何を守るための決定なのかを説明する。私が下請けの仕事を続けると言い切れなかったのは、その仕事の意味を自分の言葉で語れなかったからでもあります。
判断の軸を、先に決めておく。
迷う場面のたびに考えるから、押し切れなくなります。うちは何のためにこの事業をやっているのか。何は妥協しないのか。この軸を先に言葉にしておけば、個々の判断はかなり楽になります。
外に、遠慮なく反対してくれる相手を持つ。
社内に反対意見を求めると、それは多数決の入口になります。社内で決を採るのではなく、社外に判断を検証してくれる相手を置くほうが安全です。同業ではない経営者、伴走してくれる外部のパートナー、いまならAIも選択肢になります。相手の探し方は、こちらの記事にまとめています。

ただしAIについては、注意が必要です。聞き方を変えれば答えも変わりますし、こちらの意向を察して忖度もします。「この判断でいいと思う?」と聞けば、たいてい肯定が返ってきます。反対意見をぶつけてもらう相手として使うなら、あえて反対の立場で検証させるなど、聞き方の側を工夫する必要があります。
現場と数字から離れない。
決めきる社長が危なくなるのは、判断材料が古くなったときです。お客様の声と、直近の数字。この二つを自分で見ている限り、判断は大きく外れません。
まとめ
社員が数名の会社に、合議は向きません。
私はそれを、みんなで決める会社を作って、傾かせるという形で学びました。良い会社を作ろうとしたつもりが、決めきれない会社を作っていた。折衷案が並び、必要な仕事を守れず、やりたいことは後回しになりました。
そして一人社長になってから、うまく回っている会社の社長はだいたいワンマンだ、という現実を外から見てきました。聞くけれど、最後は自分が決める。責任を持っている人が決めているから、会社が前に進む。
ワンマンであることを、後ろめたく思う必要はありません。避けるべきなのは、私利私欲で決めること、耳を閉じること、責任から逃げること、軸がぶれること。この四つを外さなければ、決めきる社長でいていいと思います。
もしいま、「また社長が一人で決めた」と言われて気にしているなら、その決断のほうが会社を守っている可能性は十分にあります。
一人で決めていること、一緒に整理しませんか?
決めるのは社長の仕事ですが、決める前に材料を並べる作業は、一人でやると抜けが出ます。
頭の中がまとまっていなくても大丈夫。何を相談したらいいか分からなくても大丈夫。
まずは、あなたの話を聞かせてください。
ソエルコトの課題発見セッションは、私が答えを出す時間ではありません。一緒に話をしながら、今どんな状態なのか、何が本当の課題なのか、次に何をすればいいのか。それを整理していく時間です。
話しているうちに、自分でも気づいていなかった考えや、本当にやりたいことが見えてくることも少なくありません。
- 形式
オンライン(Zoom)・45分(目安) - 料金
初回限定 3,300円(税込)/2回目以降 9,900円(税込)
課題発見セッションは、ソエルコトのサービスを紹介したり販売するための無料相談会ではありません。本当に必要としてくださる方と、一人ひとり丁寧に向き合うための時間です。そのため、有料としています。
無理な勧誘はしません。相性が大切だからです。まずはお話ししてみましょう。

