はじめに
前の記事で、社員が数名の小さな会社に合議は向かない、社長が決めきっていい、という話を書きました。

ただ、決めきる社長を何人も見ていると、同じように決めているのに結果がまるで違うことがあります。決めたことがすぐ形になっていく会社と、決めたはずのことが何ヶ月も動かない会社。社長の決断力にそこまで差があるようには見えません。
ソエルコト代表の小南です。一人社長になって16年、社外のパートナーとして小さな会社の内側を見てきました。仕事の性質上、私は社長とも社員とも直接話します。社長がいる場で社員が何を言うかも、社長がいない場で何を言うかも、両方を知る立場にいます。
その中でわかってきたことがあります。良いワンマンと悪いワンマンを分けているのは、社長の性格や決断の速さではありません。決めたあと、社員の口からどんな言葉が出てくるかです。そこに関係性がそのまま表れます。
この記事は、社員を1名以上雇っている小さな会社、20名くらいまでの会社の社長に向けて書きます。自分がどちらに寄っているかを点検する材料にしてください。
決めた瞬間、社長は何と言うか
私は社長と二人で話して物事を決めることが多いのですが、決まった直後の一言が社長によってはっきり違います。実際によく聞くのは、この三つです。
- 「やりましょう。先に社員に話だけ通しておきますので、準備を進めてください」
- 「やります。社員にすぐにやらせます。指示書送ってください」
- 「やりたいです。社員に説明して欲しいので、ミーティング設定しますね」
決めているのは、どれも社長本人です。違うのは、そのあと社員をどう扱うか。伝えるのか、動かすのか、巻き込むのか。
ここに優劣はないと思っています。事業の内容によっても、社員の経験によっても、適した進め方は変わります。ただ、社長と社員の距離感は、この一言の時点ですでに見えています。私はこの言葉を聞いた時点で、次に何が起きるかをある程度予想するようになりました。
決めたことを社員に伝えたとき、何が返ってくるか
社長と決めたことを、私が社員のみなさんに説明する場面があります。同じ内容を同じように説明しても、返ってくる言葉は会社によって全く違います。段階として並べてみます。
段階1:決定に乗ったうえで、実現の相談が始まる
「社長がそう決めたんですね。わかりました。やりましょう。ただ、実現するには少し工夫が必要そうです。進め方を相談させてください」
「うちの社長はああいう人なんで、言い出したら聞かないですし、私たちが頑張るだけです」
社長への信頼が高く、ビジョンやミッションが共有されている状態です。二つ目の言い方は一見あきらめのように聞こえますが、実際にはそうではありません。決定を受け入れたうえで、自分たちが引き受けると言っています。
この段階の会社は、話が早い。決定が現場に届いた瞬間から、議題が「やるかどうか」ではなく「どうやるか」に移ります。
段階2:意図は受け止めたうえで、現場の整理を求める
「意図は理解しました。でも、このままだとスタッフやお客さんが混乱するかもしれません。社長も含めてみんなで整理する時間を作るので、ちょっと待ってください」
社長への信頼はあるけれど、現場目線も強い状態です。これも健全だと思います。決定そのものは否定していませんし、社長を含めて整理しようとしています。
現場を預かっている人が、お客様に起きることを先に心配する。むしろ現場が機能している証拠です。
段階3:本当に進むのか、社員が半信半疑になっている
「また新しい話なんですね…。前回も途中で変わりましたし、今回は本当に進めるんでしょうか? もう少し詳細が決まるまで、様子見でもいいですか?」
ここから空気が変わります。原因は社長の決定の内容ではなく、方針が頻繁に変わってきた過去です。
決めては変える、始めては止まる。それが何度か続くと、社員は決定を「まだ確定していない話」として扱うようになります。動かないのではなく、動くと損をした経験があるからです。
段階4:決定が社員のところで止まる
「え、また社長がそんなこと言ってるんですか。今の状況では現実的ではありません。一度社長と話します。この話は、一旦止めてください」
社長のリーダーシップと信頼が下がっている状態です。決定が現場に届かず、社員の判断で止まります。
この段階になると、社長は決めているつもりでいて、実際には何も動いていない、という状態が生まれます。
この四段階に、正解はありません
先に書いておきたいのですが、これは「1が正解で4が失格」という話ではありません。社長と社員の関係性がどうなっているかという話なので、そこに正解はないと思っています。段階1と段階2のどちらが良いという話でもありません。関係の形は会社ごとに違います。
私が使っているのは、あくまで温度計としてです。同じ会社でも時期によって変わりますし、社員によっても違います。
ただ、社員の口から段階3や段階4の言葉が出てきたときは、これは危ないなと感じます。関係性がうまくいっていない、悪い方のワンマンに寄っている。そう受け取って、そこから先は慎重に動くようにしています。
理由は単純です。小さな会社がワンマンで決める最大の利点は、速く動けることです。段階3や4では、その利点が消えています。決めているのに動かない。それなら、決めきる意味がありません。
そして厄介なのは、この状態に社長が一番気づけないことです。社員は、社長本人に「今回は本当に進めるんでしょうか」とは言いません。言うのは、社長のいない場所であり、外から入っている私に対してです。社長が耳にする言葉だけで判断すると、実際よりかなり良く見えます。
私が間に入るとき、何をしているか
段階3や4の会社で、私が何をしているかを書いておきます。社長に伝えるべきことは伝えますが、社員の言葉をそのまま運ぶわけではありません。
社員には、社長の意図とやるべき理由を噛み砕いて説明します。
決定だけが降りてくると、社員には「また社長が思いついた」と見えます。何のためにやるのか、これをやると会社にとって何が変わるのか。そこを言葉にして渡すと、同じ決定でも受け取り方が変わります。
社員の不満や不安を聞いて、取り除けるものは取り除きます。
反発の中身は、実は反対意見ではなく不安であることが多いです。自分の仕事が増えるのか、できなかったときに責められるのか、お客様に迷惑がかからないか。聞いて、答えられるものに答えていくと、残る論点はぐっと少なくなります。
社長には、気持ちではなく事実として、現場の課題という形でフィードバックします。
ここが一番大事なところです。「社員が不満を言っています」と伝えても、社長は動きません。誰かの気分の話に見えてしまうからです。何がどこで詰まっているのか、このまま進めると何が起きるのか。同じ内容を事実として並べ替えると、社長にとって判断材料になります。感情のまま運ぶと反発を招き、事実に整えると判断が動く。この違いは大きいです。
最初は段階3や4だった会社でも、これを続けていくと関係性は少しずつ変わっていきます。双方の意見を聞いて、整理して、溝を埋める。社長にも社員にも、利害の外側から話せる立場だからできることでもあります。
ただ、これは外部の人間でなければできない仕事ではありません。社内にこの役をやれる人がいて、実際に機能しているなら、それが一番です。社長の意図を現場の言葉に置き換えて、現場の状況を社長に伝えられる人。多くの会社では、番頭役や現場のリーダーがその役を担っています。
そういう人がいる会社に外から誰かが入ると、かえって摩擦が生まれることもあります。社内で回っている調整を外の人間が横から触るので、話の筋が二つになってしまうからです。
ただ、正直に書くと、私に声がかかるのはうまく回っていない会社です。その役を担える人が社内にいない。あるいは、いたけれど今は機能していない。だから外から呼ばれます。
社内の関係が固まってしまっているとき、それを内側から動かすのはかなり難しいです。立場も、これまでの経緯も、全員が背負ったままだからです。外の人間には、そこがありません。誰の味方でもない場所から、社長にも社員にも同じことを言える。だから外から変えるほうが早い場面があります。
社外に相手を持つという話は、こちらの記事に書いています。

社長は、社員の言葉では点検できない
ここまで社員の言葉を並べてきましたが、一つ前提を確認しておきたいことがあります。
段階1から段階4まで並べた社員の言葉は、社長本人には向けられません。「今回は本当に進めるんでしょうか」も「一旦止めてください」も、社長がいない場所で出てくる言葉です。社長の前では、たいてい「わかりました」で終わります。
つまり、自分に返ってきた言葉を思い出して段階を判定する、という点検はできません。社長の耳に届いている言葉は、そもそも本音ではないからです。
それでも、社長が自分で確かめられるものはあります。言葉ではなく、決めたあとに実際に起きたことです。
決めたことが、いま動いているか。
先月決めたことは、どこまで進んでいますか。誰が、いつまでにやるのかまで決まっていますか。その場では合意されたのに動いていないなら、それは納得されていないというサインです。
向こうから相談や確認が来ているか。
決定が受け止められている会社では、進め方の相談や細かい確認が現場から上がってきます。逆に、こちらから催促するまで何も言ってこないなら、静かに進んでいるのではなく、止まっていると考えたほうがいいと思います。
方針を変えたとき、理由を伝えたか。
社長が判断を変えるのは、悪いことではありません。市場もお客様も動きますし、やってみて違うとわかることもあります。状況が変わったのに前の決定に縛られるほうが、よほど危ないと思います。
問題になるのは、変えた理由が社員に渡っていない場合です。理由が見えなければ、社員には「また気が変わった」としか映りません。それが何度か続くと、次に何を決めても「まだ確定していない話」として扱われるようになります。段階3の正体はこれです。
変えるなら、何が変わったから判断を変えたのかを一緒に伝える。それだけで、社員から見た景色はかなり違います。
まとめ
同じように決めきる社長でも、会社が動く会社と止まる会社に分かれます。その差は、決断力ではありません。決めたあと、社員のところで何が起きているかです。
社員が「どうやるか」を相談し始めるなら、決定は届いています。「今回は本当に進めるんでしょうか」と言われているなら、届いていません。「一旦止めてください」まで来ているなら、決めていることが機能していません。
ワンマンであることを、後ろめたく思う必要はないと思っています。ただ、自分の決定が現場のどこかで止まっていないかは、ときどき確かめたほうがいい。そして、その確かめに一番必要な言葉は、社長の耳には届きにくいところにあります。
だから、社長と社員の両方の話を聞ける人がいると、気づくのが早くなります。社内にその役ができる人がいるなら、それが一番早い。いない場合に外から入れる。私がクライアントの会社でやっている役割です。
決めたことが、ちゃんと動いていますか
決めているのに進まない。伝えたはずなのに形にならない。その原因は、社長一人で考えても見つけにくいところにあります。
頭の中がまとまっていなくても大丈夫です。何を相談したらいいか分からなくても大丈夫です。
まずは、あなたの会社で今起きていることを聞かせてください。
ソエルコトの課題発見セッションは、私が答えを出す時間ではありません。一緒に話をしながら、今どんな状態なのか、何が本当の課題なのか、次に何をすればいいのか。それを整理していく時間です。
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