はじめに
自分の力で稼いでみたい。会社員を辞めて、得意なことを仕事にしたい。あるいは、すでに一人で始めてみたけれど、この先どう伸ばせばいいのかがわからない。
そんなときに出てくる言葉が「スモールビジネス」です。ただ、この言葉はかなり誤解されています。小さい商売、ささやかな副業、大きくならない事業。そういう受け取り方をされがちですが、本来は事業の大きさを指す言葉ではありません。個人のスキルや経験を活かして、着実な収益を長く続けていく事業のことです。決めているのは規模ではなく、目的のほうです。
書いているのは、ソエルコト代表の小南です。2006年に会社を立ち上げ、社員2人から4人の小さな会社を5年経営したのち、一人社長になって16年になります。
ただし、この定義だけでは足りません。選ばれる会社やサービスになるには、もう一つ条件があります。選ばれるかどうかは、特定の誰かにとっての一番になれるかどうかで決まります。
そこにたどり着くために必要なのが、視点の切り替えです。入口は「自分のやりたいこと」でかまいません。でも、続けて選ばれるようにするには、お客さんの側から自分の事業を見る必要があります。私自身、それに気づくまでにずいぶん遠回りをしました。
スモールビジネスとは?定義と、よくある誤解
規模ではなく、目的で決まる
スモールビジネスを決めているのは会社の大きさではありません。判定基準になるのは、爆発的な急成長ではなく、利益を出しながら事業を続けていくという目的のほうです。
社員が何人いても、目的が「着実な収益を長く続けること」ならスモールビジネスです。逆に、一人でやっていても、短期間で急成長させて売却を狙うならスタートアップ寄りの考え方になります。
私もここを誤解していました。会社をつくるときは社員20名くらいの規模を思い描いていて、「自分はスモールビジネスではない」と思い込んでいたんです。でも判定は人数ではありません。着実に続けていく商売なら、人数のイメージに関係なくスモールビジネスの側です。
法律上の「小規模企業者」とは別の話
混同されやすいので、法律上の区分にも触れておきます。中小企業基本法には「小規模企業者」という定義があり、こちらは従業員数で線が引かれています。
- 製造業・建設業・運輸業など:従業員20人以下
- 商業(卸売業・小売業)・サービス業:従業員5人以下
これは補助金や支援制度の対象を決めるための基準で、スモールビジネスかどうかの判定ではありません。個人事業主やフリーランスも含まれます。国や自治体の制度を使うときに関わってくるので、頭の片隅に入れておいてください。
スタートアップとの違い
よく並べて語られるスタートアップとは、目指すゴールが違います。
- スモールビジネス — 安定した収益を上げて、事業を長く続けることが目標。資金は自己資金や銀行融資が中心
- スタートアップ — 革新的なアイデアで新しい市場を作り、短期間で急成長してIPOやM&Aを目指すのが目標。資金はベンチャーキャピタル(VC)からの出資が中心
どちらが優れているという話ではありません。ただ、目指すゴールが違えば、選ぶべき戦い方も学ぶべきことも変わります。自分がどちら側なのかは、始める前に確かめておいたほうがいいです。判断の仕方まで含めて、別の記事にまとめました。

成功例から学ぶ「勝ちパターン」
定義がわかっても、それだけでは戦い方は見えません。うまくいっている事業をいくつか見てみましょう。いまの会社の大きさは違っても、伸びたときのやり方は共通しています。全員に選ばれようとせず、特定の人にとっての一番を取っていることです。
北欧、暮らしの道具店:特定の暮らし方の人にだけ届ける
クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、雑貨やオリジナル衣料品を扱うECサイトです。2007年に開店し、2025年7月期の同事業売上は約82.6億円。アプリのダウンロード数は500万を超えています。大きくなってからも、勝ち方の芯は変わっていません。
特徴は、商品を売り込む前に「暮らし」を語っていることです。読み物や動画、ポッドキャストを通じて、「この暮らし方が好き」と感じる人たちに届けています。同社はターゲットを「私たちみたいな誰か」と表現しています。
その結果、値引きに頼りすぎなくても売れる状態を作れました。オリジナル商品では定価のまま売れる比率が95%を超える水準を維持しています。
ここから学べるのは、ターゲットを絞るほど信頼は濃くなるということです。誰にでも合う店を作ろうとすると、誰にとっても一番になれません。
Figs:職業をひとつに絞って伸びたブランド
Figsは、医療従事者向けのウェア(スクラブ)を作っているアメリカのブランドです。いまでは大きな会社ですが、始まりの発想はとても単純でした。
創業者が気づいたのは、アメリカに1800万人もの医療従事者がいるのに、その人たちのためだけに作られたブランドが存在しないことでした。素材もデザインも数十年ほとんど変わっていなかったそうです。そこに絞って商品を作り、自社サイトで直接販売する形で伸ばしました。
医療従事者という一つの職業だけを見て、その人たちにとっての一番になる。市場を狭めたことが、そのまま強みになった例です。
一人でも成立する、極端に狭いニッチ
もっと小さい規模でも同じことが起きています。
建築業界の基礎工事という領域に絞って、資材の計算を自動化するソフトを一人で作り、運営している事業者もいます。顧客は数社でも、1社あたりの月額単価が高いので、一人でも十分な売上を成立させています。
競合がいない領域を選んだので、価格競争が起きにくくなります。狭さは弱点ではなく、参入障壁です。
私の失敗と、うまくいった一つのこと
私自身の場合は、同じ時期に失敗と成功が並んでいました。
会社を作った当時、八王子にオフィスを構えて、自分たちは八王子で一番の制作会社だと思っていました。強みも売りも謳っていましたし、自信もありました。それでも、地域の企業や店舗のWeb制作・広告制作の仕事は、ほとんど取れませんでした。
いま振り返れば、ただのWeb制作会社でした。自分では差別化しているつもりでも、お客さんから見れば「どこにでもある制作会社」だったんです。ここがいちばん怖いところだと思います。
一方で、同じ頃に始めた「習い事教室・学習塾の生徒募集に特化したホームページ制作」は、仕事が取れていました。地域では当社だけでしたし、全国を見てもほとんどありませんでした。案件の規模も金額も小さい。それでも、ここなら一番を目指せると思っていました。
その小さな一番を積み上げてきた結果、習い事教室・学習塾の生徒募集では、いま日本で一番と言っていいポジションを取れています。
共通しているのは「特定の人にとっての一番」
並べてみると、どれも同じ構造です。
北欧、暮らしの道具店は「その暮らし方が好きな人」にとっての一番です。Figsは「医療従事者」にとっての一番、基礎工事のソフトは「基礎工事をやる会社」にとっての一番、私の場合は「生徒を集めたい習い事教室・学習塾」にとっての一番でした。
なぜ一番を狙う必要があるのか。お客さんは商品やサービスを選ぶとき、自分にとって一番いいと思ったもの、一番合っていると思ったものを選ぶからです。どんなに良くても、2番目や3番目では選ばれません。
総合で一番になる必要はありません。みんなにとっての一番でなくてもいい。特定の人にとっての一番であればいい。これがスモールビジネスの勝ちパターンです。
スモールビジネスのアイデア:見つけ方と一覧
勝ちパターンが「特定の誰かの一番」なら、次に必要なのは、自分の事業をどこに置くかです。流行っている業種から探すより、自分の中から探すほうがうまくいきます。続けられるし、経験がある領域ならお客さんの困りごとも具体的に見えます。
アイデアは「自分の強み × 誰かの困りごと」から探す
やり方はこうです。まず自分の「好き・得意・やってきたこと」を書き出す。次に、その周辺にいる人たちの困りごとを書き出す。その二つが重なるところを探します。
- 経理をやってきた → 個人事業主が記帳や確定申告でつまずいている
- 写真を撮ってきた → プロに頼むほどではないが、きれいな写真が欲しい小さな店がある
- 学習塾で働いていた → 生徒募集のやり方がわからない教室がたくさんある
このとき、「自分がやりたいこと」だけで止めないのが大事です。やりたいことは入口にすぎません。お客さんが解決したいこと、求めていることに寄せていく作業が必要になります。
絞るときに使う3つの問い
アイデアが出てきたら、次は絞ります。以下の3つを言葉にしてみてください。
- 誰に — 業種、地域、規模、立場。ソエルコトの例:「社長」ではなく「一人社長」くらいまで絞る
- どんな状況で — 開業直後なのか、伸び悩んでいるのか、人手が足りないのか
- どんな困りごとを解決するか — 相手が自分の言葉で説明できる困りごとかどうか
この3つが具体的になるほど、競合が減ります。そして「自分はこれの専門家です」と言えるようになります。
スモールビジネスのアイデア一覧
一人で始めるものだけがスモールビジネスではありません。店舗を構えてスタッフを雇うものも、社員を入れて受託の仕事を回すものも、目的が「着実な収益を長く続けること」なら同じです。自分の強みと照らし合わせてみてください。
まずは、一人でも始めやすいものから。
オンライン・デジタル系
- ネットショップ運営
- Webサイト制作・デザイン
- SEO対策や広告運用などのデジタルマーケティング
- 動画制作・編集
- SNS運用代行
専門スキル・サービス系
- オンライン家庭教師・語学レッスン
- パーソナルトレーニング
- キャリアカウンセリング・コーチング
- 翻訳・通訳・写真撮影
- 整理収納・ハウスクリーニング
- 記帳代行・バックオフィス支援
物販系
- ハンドメイド作品の制作販売
- 地域特産品や輸入品のオンライン販売
- 特化型セレクトショップ運営
次は、人を雇って広げていくタイプです。
店舗・教室系
- 飲食店・カフェ・キッチンカー
- 美容室・サロン・整体院
- 学習塾・習い事教室(音楽、英会話、バレエ、格闘技など)
- フィットネススタジオ
- 保育・学童・介護の小規模事業所
受託・BtoB系
- Web制作会社・広告制作会社
- 設計事務所・デザイン事務所
- 工務店・リフォーム業
- 清掃・メンテナンス業
- 士業事務所(税理士、社会保険労務士、行政書士など)
- 特定分野に強いコンサルティング会社
店舗・教室系と受託・BtoB系は、人を雇うので「これはスモールビジネスではない」と思われがちです。でも違います。私が最初にやっていたのも、社員2人から4人のWeb制作・広告制作会社でした。人数がたとえ10人、20人と増えても、目指しているのが着実な収益と長く続く経営なら、スモールビジネスのままです。
ここに並べたのは入口です。それぞれがどうやってお金を生むのか、稼ぎ方の型については一人起業のビジネスモデル — 稼ぎ方の型と、AIで広がった可能性にまとめています。

スモールビジネスの始め方:5つのステップ
アイデアの方向が見えても、動かなければ事業にはなりません。「特定の誰かにとっての一番になる」ために、どう進めればいいのかを5つのステップに分けて整理します。
ステップ1:棚卸しを、事業の種に落とす
自分の強みと、誰かの困りごとを、もう一度紙に書き出してください。ここでのポイントは3つに分けることです。
- できること — 仕事で身につけたスキル、資格、詳しい業界
- やりたいこと — 続けても嫌にならないこと、興味が長く続いていること
- 求められていること — 過去に人から頼られたこと、感謝されたこと
3つが重なるところに、事業の芯があります。「求められていること」を思い出すのがいちばん難しいのですが、ここを飛ばすと自分だけが盛り上がっている事業になります。
ステップ2:誰の一番になるかを決める
次に、アイデアを絞るときの3つの問い(誰に・どんな状況で・どんな困りごとを解決するか)に答えて、狙う場所を決めます。
このとき、市場が小さくなることを恐れないでください。「Web制作」のままでは同業がいくらでもいて埋もれますが、「習い事教室の生徒募集に特化したWeb制作」まで絞れば、競合はほとんどいなくなります。
しかも、最初はすごく小さな一番でかまいません。そこで一番になったら、次は一つ上の段階で一番を目指す。さらにその上でも一番になる。そうやって、一番が取れる範囲を少しずつ広げていきます。
この順番を逆にしてはいけません。最初から広い範囲で勝とうとすると、どこでも二番三番になって選ばれません。
ステップ3:小さく試して、最初のお客さんに届ける
決めたら、完璧に仕上げる前に試します。
最初は身近な人に声をかけて、モニター価格や無料で使ってもらってください。ここで確かめたいのは、「本当にお金を払ってもらえる困りごとなのか」です。自分が良いと思っているだけでは足りません。
反応をもらったら直す。また出す。この往復を何度かやってから、正式なサービスにします。いきなり店舗を借りたり、大きな初期投資をする必要はありません。会社を辞める前に、副業や週末の時間で試すのがいちばん安全です。
最初の集客も、広告からではなく身近なつながりから始めるのが現実的です。知人に声をかけたり、SNSで発信したり、これまでの仕事で関わった人に相談してみる。そこで丁寧に対応して、感想と紹介をもらいます。口コミとリピートが、スモールビジネスの土台になります。
ステップ4:開業手続きとお金の土台を整える
手応えが出てきたら、事業としての形を整えます。
- 開業届 — 事業を始めたら税務署に提出します
- 青色申告の承認申請 — 期限内に出しておくと、条件を満たせば最大65万円の特別控除など税制上の優遇が受けられます
- 事業用の口座 — プライベートと分けておくと、帳簿と確定申告が一気に楽になります
- 帳簿づけ — クラウド会計を使えば、日々の入力はそれほど負担になりません
法人にするかどうかは、あとで考えて大丈夫です。まずは個人事業主として始めて、売上が育ってから法人化を検討する流れが一般的です。
ステップ5:マーケティングを学び続ける
手続きが整っても、選ばれなければ事業は続きません。ここが、多くのスモールビジネスの分かれ道です。
お客さんから見れば、似たようなサービスを出している会社はいくらでもあります。自分では他とは違う、絶対にいいと思っていても、それが伝わっていなければ選ばれません。だから私は、スモールビジネス=マーケティングだと思っています。成功の近道は、マーケティングを学ぶことです。
私にとってのバイブルは、ジェイ・エイブラハムの『ハイパワー・マーケティング』です。今でもそうです。特に効いたのは、次の2つでした。
- USP(ユニーク・セリング・プロポジション) — 自分だけが提供できる独自の価値です。他と何が違うのかを、お客さんの言葉で言えるようにします。「品質が高い」ではなく「生徒募集のノウハウを持っているのは当社だけ」のように
- 売るのは商品ではなく「解決策」 — そして「信頼されるアドバイザー」になることがビジネスの本質だという教えです。売り手として売り込むのではなく、相談される相手になる
マーケティングを学んで、私がいちばん変わったのは視点でした。自分側の視点から、お客さん側の視点へ。何を考えるときも、何を作るときも、相手の側から見る。ここが変わってから、進む道がはっきりしました。
そしてこれは、一度学べば終わりというものではありません。お客さんも市場も変わっていくので、学び続けて、サービスに反映し続ける必要があります。
まとめ:自分の強みで、特定の誰かの一番になる
スモールビジネスは、会社の大きさで決まるものではありません。自分のスキルや経験を活かして、着実な収益を長く続けていく進め方です。
うまくいっている事業を見ると、業種も規模も違うのに、やっていることは同じでした。全員に選ばれようとせず、特定の人にとっての一番を取っている。北欧、暮らしの道具店も、医療従事者だけを見たブランドも、基礎工事だけを見たソフトも、そこは共通しています。
入口は「自分のやりたいことをやるための会社」でいいんです。でも、続けて選ばれるようにするには、お客さんの視点が必要になります。そして、みんなにとっての一番でなくてもいい。特定の誰かにとっての一番になれば、選ばれます。
まずは小さな一番から始めてください。そこから一つ上へ、また一つ上へ。私もそうやって続けてきました。
自分がどこで一番を取れるのか、一緒に整理しませんか?
強みはある。やりたいこともある。でも、それをどう事業の形にすればいいのかが見えない。すでに始めているけれど、選ばれている実感がない。誰の一番を狙うべきなのか、自分ではどうしても決めきれない。
一人で考えていると、同じところをぐるぐる回ってしまうものです。
頭の中がまとまっていなくても大丈夫です。何を相談したらいいか分からなくても大丈夫です。
まずは、今どんな状態なのかを聞かせてください。
ソエルコトの課題発見セッションは、私が答えを出す時間ではありません。一緒に話をしながら、今どんな状態なのか、何が本当の課題なのか、次に何をすればいいのか。それを整理していく時間です。
- 形式
オンライン(Zoom)・45分(目安) - 料金
初回限定 3,300円(税込)/2回目以降 9,900円(税込)
課題発見セッションは、ソエルコトのサービスを紹介したり販売するための無料相談会ではありません。本当に必要としてくださる方と、一人ひとり丁寧に向き合うための時間です。そのため、有料としています。
無理な勧誘はしません。相性が大切だからです。まずはお話ししてみましょう。

