「一人で会社を立ち上げたけど、税理士って本当に必要なんだろうか?」
「会計ソフトが優秀だから、自分でできるんじゃないかな…」
「でも、税金のことって難しそうだし、何かあったら怖い…」
一人社長として日々奮闘するあなたなら、一度はこんな風に考えたことがあるかもしれません。
かつては「会社には税理士がいて当たり前」という風潮がありましたが、今は高性能なクラウド会計ソフトが普及し、状況は大きく変わりました。
税理士に頼らず、自分で経理や税務申告をこなす「DIY経理」も、現実的な選択肢になっています。
この記事は、「税理士は必要か、不要か」という二者択一の答えを押し付けるものではありません。
テクノロジーを味方につける「DIY派」の可能性と、専門家の力を借りる「おまかせ派」のメリットを、両方の視点から徹底的に掘り下げます。
【自分でやる派】会計ソフトがあれば税理士はいらない?FinTech時代のセルフ会計術
「税理士費用を節約して、その分を事業に投資したい!」そう考えるのは、経営者として自然なことです。
ここでは、税理士は必須ではなく「選択肢の一つ」と考えるための具体的な方法と、そのメリットに焦点を当ててみましょう。
頼れる相棒!クラウド会計ソフトを使いこなそう
最近のクラウド会計ソフトの進化には、目を見張るものがあります。特に「freee会計
」と「マネーフォワード クラウド会計
」は、一人社長の強力な味方になってくれます。
これらのソフトがすごいのは、銀行口座やクレジットカードを連携すれば、取引データを自動で取り込んで、仕訳まで提案してくれるところ。日々の面倒な入力作業が劇的に減ります。
もちろん、決算書の作成や、インボイス制度・電子帳簿保存法といった最新のルールにもしっかり対応済みです。
どちらのソフトを選ぶかは、あなたの会計知識や、どう経理と向き合いたいかで決まります。
freee会計
「簿記はよくわからない…」という方でも大丈夫。「いつ、誰と、いくらの取引があったか」を登録するだけで帳簿が作成される、独自のUIが特徴です。会計や申告、請求書発行といったバックオフィス業務全体を一つの大きな流れとして捉え、シームレスに完結させることを目指す思想です。マネーフォワード クラウド会計
伝統的な会計の考え方(勘定科目)に基づいていて、従来の会計ソフトに近い帳簿形式の入力画面が特徴なので、簿記の知識がある方には馴染みやすいUIです。「会計」を軸に、請求書や経費精算など各機能が専門的に独立しており、それらを連携させて使う思想です。
ソフト選びは、単なるツール選びではありません。あなたが財務とどう付き合っていくかのスタイルを決める、経営の第一歩と言えるでしょう。
自分でできる!日々の記帳から税務申告までの3ステップ
一人社長が自分で経理を完結させるための流れは、意外とシンプルです。
- 1. 日々の記帳
クラウド会計ソフトに取引を記録していきます。自動連携機能を使えば、ほとんど手間はかかりません。 - 2. 決算書の作成
会計年度の終わりには、ソフトがボタン一つで貸借対照表や損益計算書といった決算書を作成してくれます。 - 3. 税務申告
ここが各ソフトで少し違いが出るポイントです。
freee会計の場合
別途「申告freee」というプランを利用することで、会計データと完全に連携した形で、法人税・消費税の申告書作成から電子申告(e-Tax/eLTAX)までをソフト内で完結させることができます。
マネーフォワード クラウド会計の場合
ソフト単体では、決算書の作成と、申告に必要なデータ(XBRL形式)の出力までを行います。実際の申告書作成と電子申告は、「全力法人税」のような、マネーフォワードのデータを取り込める別の税務申告ソフトと組み合わせて使うのが一般的です。
つまり、「会計ソフトでどこまで完結させたいか」によって、選ぶソフトや組み合わせ方が変わってくるのです。
コストを比較!DIY vs 税理士報酬
DIYのコスト
気になる費用を比べてみましょう。DIYアプローチの経済的メリットは明らかです。
会計ソフトと税務申告ソフトを組み合わせた場合の具体的な年間コストを見てみましょう(2025年8月時点、税抜)。
- freee会計(ミニマムプラン・申告機能込み)
年額 28,560円〜
※ミニマムプランは、部門別の損益管理や外貨での取引記帳には対応していません。 - マネーフォワード クラウド会計(ひとり法人プラン) + 全力法人税
年額 47,760円〜
(内訳:マネーフォワード 29,760円、全力法人税 18,000円)
※ひとり法人プランは、年間の仕訳登録数が500件までという明確な上限があります。ECサイト運営などで取引件数が非常に多くなるビジネスモデルの場合には注意が必要です。
機能や価格だけ見るとfreee会計が有利に見えるかもしれませんが、前述の通り、両ソフトには設計思想に大きな違いがあり、どちらが合うかは個人の好みやITリテラシーに大きく左右されます。
どちらにも無料お試し期間があるため、両方を実際に触ってみて、「これなら続けられそうだ」と感じる方を選ぶのが、最も後悔のない選択と言えます。
税理士のコスト
年商1,000万円未満の会社の場合、決算申告だけを単発で依頼する「スポット契約」で年間10万円~20万円。毎月相談に乗ってもらう「顧問契約」だと、記帳を自分で行う場合でも年間28万円~45万円程度が相場です。
比較項目 | DIY(ソフトウェアのみ) | 税理士(スポット契約) | 税理士(月次顧問契約) |
推定年間コスト | 3万円~5万円 | 10万円~20万円 | 28万円~45万円以上(記帳代行なし) |
主なサービス内容 | 日々の記帳、決算書作成、税務申告書の作成・提出 | 決算書・税務申告書の作成・提出の代行 | 月次での会計データレビュー、税務相談、節税アドバイス、決算申告代行 |
こんな社長におすすめ | コストを最優先し、取引がシンプルで、自ら学ぶ意欲のある社長 | 日々の記帳は自分でできるが、最終申告の正確性に不安がある社長 | 経営に関する相談相手を求め、本業に集中したい、または事業が複雑な社長 |
DIYが向いているのは、こんな社長!
以上の点から、DIY経理でうまくやっていける一人社長のタイプが見えてきます。
- 事業がシンプル
取引の数がそれほど多くなく、お金の流れがわかりやすい。 - ITツールが好き
新しいソフトウェアを触ることに抵抗がない。 - 学ぶことが苦にならない
会計や税金の基本を自分で調べたり、学んだりする意欲がある。 - コスト最優先
何よりもまず、手元のキャッシュを大切にしたい。
これらに当てはまるなら、あなたはDIY経理で十分にやっていける可能性が高いでしょう。
【専門家におまかせ派】税理士に頼むと、どんなメリットがある?
「自分でやるのは、やっぱりちょっと不安…」「本業に集中したい!」そう考える方も多いはずです。
ここでは、DIYアプローチの注意点と、専門家である税理士が提供してくれる、ソフトウェアだけでは得られない価値について見ていきましょう。
気づきにくい「うっかりミス」を防ぐ専門家の目
会計ソフトは非常に優秀ですが、入力する情報そのものが間違っていれば、正しい決算書は作れません。いわゆる「ゴミを入れたらゴミしか出てこない」の原則です。
例えば、クラウド会計ソフトは銀行口座やクレジットカードを連携させ、取引データを自動で取り込み、AIが勘定科目を提案してくれます。
しかし、その支出が本当に経費として認められるものなのか(例えば、事業と無関係なプライベートな食事代ではないか)、最終的に判断するのは経営者自身です。
もし、この判断を誤り、経費にできないものを経費として計上し続けた場合、税務調査で指摘され、多額の追加納税(追徴税)とペナルティ(加算税や延滞税)が発生する可能性があります。
税理士は、こうした経営者自身では判断に迷うようなケースについて、専門的な視点からアドバイスを提供し、潜在的なリスクを防ぐ役割を果たします。
いざという時の「法的パートナー」としての存在感
「税務相談」は独占業務
実は、あなたの会社の具体的な税金の計算方法についてアドバイスする「税務相談」は、税理士だけに許された独占業務です。
資格のない人が、たとえ無料であってもこれを行うと法律違反になる可能性があります。
つまり、質の高いアドバイスを継続的に得たいなら、税理士と契約するのが最も確実な方法なのです。
税務調査という「試練」の心強い味方
税理士を頼む最大のメリットの一つが、税務調査への対応です。
- 専門家がチェックしていない申告書は、税務署から「間違いがあるかもしれない」と見られやすい傾向がある、という意見もあります。
- 税理士がいれば、調査前の準備から調査官とのやり取り、そして社長の代理人としての交渉まで、すべてを任せることができます。
- 一人で税務調査に立ち会う精神的なプレッシャーは想像以上に大きいもの。本業が手につかなくなることも考えられます。税理士の存在は、このプレッシャーを和らげ、社長が事業に集中し続けるための「防波堤」になってくれるのです。
ミスの本当の代償:追徴税だけじゃない、失われるもの
申告ミスが発覚した場合のコストは、追加で納める税金だけではありません。
ペナルティ(附帯税)の存在:
- 過少申告加算税
本来より少なく申告した場合、追加税額の10%~15% - 無申告加算税
申告自体を忘れた場合、税額の15%~30% - 重加算税
意図的な隠蔽など、悪質と判断されると課される最も重いペナルティで、追加税額の35%~40% - 延滞税
納付が遅れた日数に応じて課される利息のようなもので、年率最大8.8%(2024年時点)に達することもあります。
これらのペナルティは、会社の経営に大きな打撃を与えかねません。
最大のコストは「あなたの時間」
複雑な会計処理や税法を調べたり、ミスの修正に追われたりする時間は、本来、新しい顧客を開拓したり、サービスを改善したりするために使えたはずの時間です。
この「機会損失」こそ、目に見えない最大のコストかもしれません。
税理士費用を「コスト」と見るか、「時間と安心を生み出すための投資」と見るか。この視点の違いが、判断の分かれ目になります。
決算書の信頼性がもたらす副次的効果
税理士が関与することで、決算書の正確性や客観性が増し、対外的な信頼につながることがあります。
- 金融機関との円滑なコミュニケーション
銀行が融資を判断する際に最も重視するのは、事業の将来性や返済能力です。その上で、土台となる決算書が専門家によってチェックされているという事実は、金融機関に安心感を与え、融資審査のコミュニケーションを円滑に進める助けになる場合があります。 - 取引先からの信頼獲得
新しい取引先との契約や、M&A・出資を検討する投資家との交渉の場では、信頼性の高い財務情報が不可欠です。専門家が確認した決算書を提示できることは、スムーズな交渉を行う上での前提条件の一つと言えるでしょう。
【最終判断】あなたの会社に税理士は必要?意思決定のためのチェックリスト
ここまで「DIY派」と「おまかせ派」、両方の視点を見てきました。ここからは、あなた自身の状況に合わせて最適な選択をするための、具体的な判断基準を見ていきましょう。
あなたはどっち派?意思決定7つのチェックリスト
以下の7つの質問に対して、あなたの考えに近いのはAとBのどちらですか?
1. コストについて
- A:費用は1円でも安く抑え、事業そのものに投資したい。
- B:安心や時間を買うための必要経費なら、専門家費用を払うことに抵抗はない。
2. 時間の使い方について
- A:自分の手で経理をやることで、会社のお金の流れを完全に把握したい。
- B:経理業務は専門家に任せ、自分は本業に120%集中したい。
3. 知識の習得について
- A:会計や税金の知識を、本やネットで自分で調べて学ぶのが好きだ。
- B:専門的なことは専門家に聞き、時間をかけずに正しい答えが知りたい。
4. 事業の複雑さについて
- A:事業内容はシンプルで、取引のパターンも決まっている。
- B:複数の事業を手掛けていたり、特殊な取引があったりして、税務的な判断に迷うことが多い。
5. 相談相手について
- A:税務のことは税務署に、経営のことは別の相談相手がいれば十分だ。
- B:税金だけでなく、資金繰りや経営全般について気軽に相談できるパートナーがほしい。
6. ミスへの考え方について
- A:最新ソフトを使えば、自分で注意深くやればミスは防げるはずだ。
- B:自分では気づけないミスが怖い。専門家のチェックで安心感を得たい。
7. 税務調査について
- A:自分でしっかりやっていれば、税務調査も堂々と対応できる。
- B:税務調査のことを考えると不安になる。専門家に盾になってほしい。
【診断結果】
- Aが多かったあなた
DIY経理への適性が高いと言えます。まずは自分で挑戦し、必要になったタイミングで専門家の助けを借りる「スポット契約」などを検討するのが良いでしょう。 - Bが多かったあなた
税理士とパートナーを組むことで、事業の成長を加速できる可能性が高いです。時間と安心を「投資」と捉え、良い税理士を探すことをお勧めします。
このチェックリストは、あくまであなたの現在の考えを整理するためのものです。会社のステージによって考え方が変わることも当然あります。大切なのは、今のあなたにとって最適なバランスを見つけることです。
税理士を考える事業の節目(トリガー)
- 売上1,000万円の壁
これが最も重要な節目です。年間の課税売上高が1,000万円を超えると、原則として2年後から消費税を納める義務が発生し、経理処理が一気に複雑になります。 - 役員報酬を「戦略的」に決める時
役員報酬の額を決めること自体は難しくありません。しかし、それを会社の利益と社長個人の税金(所得税・住民税・社会保険料)のバランスを最適化する「最も重要な節税戦略」と捉えた場合、その難易度は非常に高くなります。税理士とシミュレーションを重ねて決定することが、手元に残るキャッシュを最大化する鍵となります。 - 大きな融資を計画している時
事業拡大のためにまとまった資金調達を考えているなら、専門家のサポートは不可欠です。 - 初めて従業員を雇う時
従業員を一人でも雇うと、給与計算や年末調整、社会保険の手続きなど、新たな業務が発生します。これらを専門家に任せるのは合理的な判断です。 - 事業が複雑になってきた時
在庫管理が必要になったり、複数の事業を手掛けるようになったりした場合、高度な財務管理が求められます。
契約は一つじゃない!自社に合った関わり方を見つけよう
税理士との付き合い方は「顧問契約を結ぶか、結ばないか」の二択ではありません。
スポット契約
決算申告など、特定の業務だけを単発で依頼するスタイル。
- メリット
年間コストを抑えられます。日々の記帳は自分でできるけど、最後の申告だけはプロに見てほしい、という社長にぴったりです。 - デメリット
会社の全体像を把握しているわけではないので、踏み込んだ節税アドバイスなどは期待できません。料金が割高になることもあります。
月次顧問契約
継続的なパートナーとして伴走してもらうスタイル。
- 記帳代行なし(自計化)
社長が会計ソフトに入力し、税理士がそのデータをチェックしてアドバイスする、という二人三脚のスタイル。コストと専門家サポートのバランスが良く、人気があります。 - 記帳代行あり
経理業務を丸ごとおまかせするスタイル。コストは最も高くなりますが、社長は本業に100%集中できます。
年間売上高 | スポット契約(決算のみ) | 月次顧問(記帳代行なし) | 月次顧問(記帳代行あり) |
~1,000万円 | 10万円~20万円 | 年間合計:28万円~ | 年間合計:40万円~ |
1,000万~3,000万円 | 15万円~25万円 | 年間合計:33万円~ | 年間合計:49万円~ |
3,000万~5,000万円 | 20万円~30万円 | 年間合計:44万円~ | 年間合計:62万円~ |
注: 上記は複数の情報源を基にした一般的な相場であり、業務範囲などによって変動します。
費用対効果の天秤:あなたにとっての「価値」とは?
税理士に支払う費用をどう捉えるか、ここでもう一度、二つの視点から考えてみましょう。費用対効果は、何を「リターン」と考えるかによって大きく変わります。
【おまかせ派の価値観】
- 支払うもの(コスト)
年間の税理士報酬 - 得られるもの(リターン):
お金:専門的な節税策、ペナルティの回避
時間:経理業務から解放され、本業に100%集中できる時間
安心と信用:税務調査への不安解消や、専門家がいるという精神的な安定
【DIY派の価値観】
- 支払うもの(コスト)
時間:経理や税務の学習、実務にかかる自分の時間
リスク:自分では気づけないミスを犯してしまう可能性 - 得られるもの(リターン)
お金:支払わずに済んだ税理士報酬。これは事業への再投資資金になる
経験:会社の財務を隅々まで把握できるスキルと経験
自律:会社の根幹である財務を、完全に自分でコントロールしている感覚
どちらの天秤が、あなたの価値観にとってより重く感じられるでしょうか。
この問いに絶対の正解はありません。あなたのビジネスがどこを目指すのか、そしてあなたが経営者として何を最も大切にしたいのか、それがそのまま、あなたにとっての答えになります。
【税理士以外の選択肢】メンターや公的機関も頼れる味方
税理士以外にも、一人社長を支えてくれる存在はたくさんあります。
公的サービスを賢く利用しよう
地域の税務署や商工会議所では、無料で税務や経営に関する相談窓口を設けています。書類の書き方など、手続き上の基本的な質問には非常に役立ちます。ただし、あなたの会社に特化した節税策のような、踏み込んだアドバイスは期待できない点は理解しておきましょう。
相談相手は使い分けが肝心
- 経営コンサルタント
経営コンサルタントは「事業戦略・マーケティング」など、より広い経営課題のプロです。 - メンター
自身の経験を元に、あなたのリーダーとしての成長やキャリアをサポートしてくれる存在です。ビジネスの相談相手として、心強い味方になるでしょう。
それぞれの専門家の役割を理解し、必要に応じて頼ることで、バランスの取れたサポート体制を築くことができます。
まとめ:あなたにとっての最適解を見つけよう
一人社長にとって、税理士をどうするかという問題は、単なるコストの話ではありません。あなたの最も貴重なリソースである「時間」と「集中力」を、どこに使うかという経営戦略そのものです。
高性能な会計ソフトは、私たちに「自分でできる」という強力な選択肢を与えてくれました。事業がシンプルなうちは、テクノロジーを駆使して自分でやりくりするのも、非常に賢い選択です。
どの道を選ぶかは、あなたの会社の今のステージ、あなた自身のリスクの捉え方、そして未来へのビジョンによって決まります。