一人社長は1日12時間労働なんて当たり前?過重労働のリスクを改めて確認してみよう

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この記事の監修者・著者

2006年に合同会社を設立。2008年に株式会社へ組織変更。社員2人〜4人の小さな会社を5年経営後、一人会社・一人社長となり15年。

WebとAIを活用して様々なスモールビジネスを展開中。集客の仕組み化が得意。一人会社・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富で、日本全国にクライアントがいます。

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一人社長のジレンマ:極限労働という現実の直視

1日12、14、16時間労働の実態

「一人社長は1日12時間労働なんて当たり前」という言葉は、多くの起業家が直面する厳しい現実を映し出しています。

14時間、あるいは16時間に及ぶ勤務も決して珍しいことではありません。

過重労働が社会問題として広く認識される現代においても、「一人社長の猛烈な働き方」は、時に自己犠牲の象徴や成功物語の一部として語られがちです。

しかし、その現実は美談などではなく、持続不可能で極めて危険な状態に他なりません。この状況は個人の能力不足ではなく、多くの一人社長が直面する構造的な問題として捉える必要があります。

この背景には強力な心理的要因が存在します。自身のアイデンティティと事業が完全に一体化し、営業から経理、総務に至るまで、事業の全責任を一人で背負うという強烈なプレッシャーがあります。

特に事業の初期段階においては、労働時間と収入が直結しているため、「休むこと」が事業の停滞、ひいては自身の価値の低下に繋がるかのような不安を引き起こします。

この心理的な絡み合いこそが、単なる業務量の多さ以上に、経営者を長時間労働へと駆り立てる根本的な要因なのです。

根本的に異なる動機とリスク

一人社長の置かれた状況は、従業員のそれとは本質的に異なります。

従業員が生活を支えるための給与を得るために働くのに対し、社長は事業そのものを創造し、維持するために働きます。

その事業は、しばしば社長自身の人生の目的と分かちがたく結びついています。

社長が一人で背負う責任の重圧は計り知れません。事業の継続性、顧客満足、財務の健全性、そして将来の戦略的方向性。これら全てに対する最終責任者であるという事実が、社長を極度の長時間労働へと向かわせます。

一人社長は常に、事業の存続を賭けた問題解決の最前線に立たされているのです。

法的枠組み:なぜ社長は守られないのか

労働基準法:社長を保護しない盾

従業員が1日12時間労働を強いられれば問題となるのに、なぜ社長は問題にならないのでしょうか。その答えは、労働基準法の目的にあります。

労働基準法は、自ら労働条件を決定する権限を持たない「労働者」を、不当な長時間労働や低賃金から保護するために定められた法律です。

従業員には、原則1日8時間・週40時間の法定労働時間、休憩時間の付与、時間外労働(残業)に対する36協定の締結義務と割増賃金の支払いといった保護が与えられています。

この保護と社長の状況を対比することで、社長がいかに法的な労働時間規制の枠外にいるかが明確になります。

雇用契約 vs 委任契約:決定的な法的区別

この問題の法的核心は、会社と個人の間の契約形態の違いにあります。

従業員は会社と「雇用契約」を結びます。これは、会社の指揮命令下で労働力を提供し、その対価として賃金を受け取ることを意味します。

一方、社長(取締役)は会社と「委任契約」を結んでいます。これは、会社の経営を委任される契約であり、社長を「雇用される側」ではなく「雇用する側」、つまり使用者側の立場に置くものです 。

この根本的な違いにより、労働時間、残業、休日、有給休暇といった概念は、法的に社長の役割とは無関係になります。

社長の受け取る金銭は労働の対価である「給与」ではなく、経営責任に対する「報酬」と位置づけられるのです。

この地位はまた、原則として社長を雇用保険のような従業員中心のセーフティネットからも除外します。

この法的「自由」は、本来、業務を他者に委任・監督する経営者のために設計されたものです。しかし、業務のすべてを自身で遂行しなければならない一人社長にとって、この「時間に縛られない自由」は、事実上「仕事が終わるまで無限に働かなければならない義務」へと変貌します。

「働かなければ事業が立ち行かない」という経済的圧力が、実質的な選択の自由を奪い、法的な自由が自己搾取を許容する罠として機能してしまうのです。

見えざる代償:過重労働がもたらす深刻な健康被害

「過労死ライン」の超過:仕事が生命を脅かすとき

法的な保護がないからといって、健康上のリスクがないわけではありません。むしろ、そのリスクは極めて深刻です。

厚生労働省が定める「過労死ライン」は、健康障害のリスクが著しく高まる時間外労働の目安を示しています。

  • レッドゾーン
    発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働
  • 危険ゾーン
    発症前2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働

これを一人社長の現実に当てはめてみましょう。

法定労働時間(1日8時間)を基準とすると、1日12時間・週6日勤務の場合、時間外労働は月におよそ103時間に達し、明確にレッドゾーンに入ります。1日14時間勤務であれば、その数値は約155時間に跳ね上がります。

この数字は、単なる多忙さではなく、生命を脅かす医学的な危険水域にいることを示す警報です。

過労死に直結する疾患として、脳血管疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)が挙げられます。

早期警告:身体が発するSOSサイン

過労による深刻な事態は、多くの場合、前兆を伴います。

以下の症状は決して「気合が足りない」兆候ではなく、致命的な事態に至る可能性のある臨床的なサインです。

  • 心血管系の前兆:
    胸の圧迫感、動悸、左腕への放散痛、胸焼けのような感覚
  • 脳血管系の前兆
    めまい、ろれつが回らない、片方の手足のしびれ、持っている物を落とす、一時的に片方の目が見えにくくなる
  • 精神面の不調:
    睡眠障害(寝付けない、途中で目が覚める)、絶え間ない焦燥感、何事も楽しめない、集中力の低下

これらのサインを無視することは、事業にとって最大のリスク管理を怠ることに他なりません。

一人社長の事業は、社長自身の心身の健康という唯一無二の資本に100%依存しています。健康問題による判断力の低下や身体的な活動不能は、事業の即時停止を意味します。

したがって、自身の健康管理は、財務管理と同様に、事業継続計画の最重要項目として位置づけられるべきです。

静かなる燃焼:起業家を襲う燃え尽き症候群

過労死という急性リスクに加え、慢性的な心身の消耗である「燃え尽き症候群(バーンアウト)」も深刻な脅威です。

これはWHO(世界保健機関)によって「適切に管理されなかった職場での慢性的なストレスに起因する症候群」と定義される、仕事に関連した現象です。

燃え尽き症候群は、主に3つの側面で特徴づけられます。

  • 情緒的消耗感
    エネルギーを使い果たし、心身ともに疲れ果てた感覚
  • 脱人格化・シニシズム
    仕事に対して心理的な距離を置き、否定的・冷笑的な態度をとる
  • 個人的達成感の低下
    自分の仕事の成果や能力に満足できず、無力感を覚える

起業家は、この症候群に特に陥りやすいと指摘されています。

その理由は、絶え間ない高いプレッシャー、相談相手のいない孤独感、曖昧なワークライフバランス、そして完璧主義や強い責任感といった特性にあります。

燃え尽きた経営者が下す戦略的判断は質が低下し、事業そのものを危険に晒します。

保護のパラドックス:では、誰が番人を守るのか

厳しい現実:頼れるのは自分自身

「誰が私を守ってくれるのか?」という問いに対する答えは、率直かつ厳しいものです。

法的には誰も社長を守る義務を負っていません。労働基準監督署は社長の労働時間を監視しませんし、介入することもありません。

この厳しい現実を直視することが、解決への第一歩となります。

経営原則としての「安全配慮義務」

ここで、発想の転換が必要です。

労働契約法第5条に定められる「安全配慮義務」は、法的には使用者が従業員に対して負う義務です。しかし、この「義務の原則」を、責任ある経営の普遍的な指針として捉え直すことができます。

一人社長は、会社における「使用者」そのものです。安全な労働環境を提供する責任を負っています。一人だけの会社において、「労働環境」とは自らが作り出す業務プロセスや期待値であり、保護すべき唯一の「従業員」は自分自身です。

この義務は、物理的な事故からの保護だけでなく、過重労働や精神的ストレスからの心身の健康保護も含まれます。

「自己保健義務」の実践:受け身の犠牲者から能動的なCEOへ

法律は、従業員側にも自らの健康を保持増進する努力義務、すなわち「自己保健義務」を課しています 。社長は、この義務の究極の実践者でなければなりません。

自らは「従業員1名の企業の最高経営責任者(CEO)」であり、その最重要資産である自分自身の健康と労働能力を管理することが、最も重要な経営責任となるのです。

これは、外部の救済者を待つのではなく、法律が提供しない保護を自ら能動的に構築するという、力強い行動への呼びかけです。

この考え方は、休息や効率化ツールの導入を「怠慢」や「贅沢」ではなく、責任ある経営者としての「中核的義務」として正当化する、強力な心理的フレームワークとなります。

明日を生き抜くための、現実的サバイバル戦略

「ツールを入れれば解決する」「専門家に相談すれば道は開ける」――。そんなアドバイスが、いかに空虚に響くか、私たちは知っています。

ここでは、そんな薄っぺらい理想論を捨て、過重労働の渦中で明日を生き抜くための、現実的な「生存戦略」を提案します。

あなたの時間を最も食いつぶしている「宿敵」を殲滅する

目指すは「一点突破」。あなたの時間を最も食いつぶしている「宿敵」を一つだけ定め、それを殲滅することだけに集中します。

  • ステップ1:敵を見極める。
    まずは24時間の使い方を正直に書き出します。そして、それぞれの作業を「この時間があるからお金を生んでいる」と、「これのせいで無駄な時間を食っている」に色分けします。そして、狙うべきは後者。一番の「時間泥棒」を見つけます。
  • ステップ2:武器を選ぶ。
    一番の「時間泥棒」を見つけたら、もっとも強力な武器(ツールやサービスなど)で殲滅します。どんな方法でも良いので、何としても解消します。
    ※AIを上手く活用すれば解消できることも多いです。

「相談」したって意味がないので、「壁打ち」に使う

公的な相談窓口(よろず支援拠点、商工会・商工会議所など)を勧められても、「どうせ親身になってもらえない」「一般論を言われるだけで時間の無駄だ」と感じ、相談する気にすらなれないしょう。

そこで、発想を転換し、「思考を整理するための壁打ち相手」になってもらいましょう。

自分だけでは気づけなかった新たな視点を得るための手段として活用しましょう。

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あなたの現状を丁寧にヒアリングし、課題を特定し、具体的なアクションプランをご提案します。壁打ち相手も、人生相談も大歓迎です。

結論:生存から成長へ

あなたのウェルビーイングこそが究極のKPI

本稿で明らかにしてきたように、法律は一人社長を労働時間の制約から解放していますが、それは自己管理という重い責任との引き換えです。

その責任を怠った場合、医学的に証明された深刻な健康リスクが現実のものとなります。

この状況を打開する唯一の道は、社長自らが自身のウェルビーイング(心身の健康)の積極的な守護者となることです。

長時間労働は、成功の証ではなく、非効率あるいは持続不可能なビジネスモデルの兆候です。

真の成功とは、あなたを消耗させる事業ではなく、あなた自身を支え、豊かにする事業を築き上げることです。

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この記事の監修者・著者

2006年に起業。合同会社を設立するも2年後に株式会社へ組織変更。社員2人〜4人の小さな会社を5年間経営後、一人会社・一人社長へ。一人社長歴15年。

ソエルコト(一人会社・小さな会社の社長さんの経営パートナー)、マナブコト(習い事教室・学習塾の生徒募集)、ホームページ作成教室など、様々なスモールビジネスを展開中。一人会社・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富で、日本全国にクライアントがいます。

大変なこと・辛いことをたくさん経験してきた小さな会社の社長として、一人社長を長くやってきた先輩として、そして一人会社研究家として、お役立ち記事を監修・執筆しています。

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