一人で会社を作る手順や費用を徹底解説!株式会社と合同会社の比較も。

社長ブログ
この記事を書いた人

2006年に合同会社アルクコト設立。2008年に株式会社アルクコトに組織変更。現在は一人会社・一人社長で、様々なスモールビジネスを展開中。

自身の20年間で築き上げたマーケティングスキル・Web制作スキル、AIスキルに加え、一流マーケターや一流コンサルタントのノウハウ・成功例・幅広い知見で構築した第二の頭脳(セカンドブレイン)を活用していることが強み。

「集客の仕組み化」と「話を聴くこと」が得意で、一人会社の社長さん・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富。

株式会社アルクコト 小南邦雄をフォローする

はじめに

「よし、起業しよう!」その熱い想いを胸に、一人で会社を立ち上げようとしているあなたへ。

会社設立は、ただの事務手続きではありません。株式会社を選ぶか、それとも合同会社にするか。そして、その手続きを自分でやるのか、専門家にお願いするのか。この最初の選択が、あなたのビジネスの未来を大きく左右する、とても重要な戦略的決断なのです。

実は、この記事を書いている私(株式会社アルクコト 代表取締役)も、一人で会社を作った経験者です。合同会社設立→株式会社への組織変更を自分でやりました。だからこそ、法律の難しい話だけでなく、実際にやってみて「これは知っておきたかった!」と感じたリアルな情報もたっぷり盛り込みました。

さあ、一緒に会社設立の全貌を解き明かしていきましょう。まずは会社の種類選びという最初の分かれ道から、具体的な設立ステップ、気になるお金の話、そして一人社長として成功するためのヒントまで、一つひとつ丁寧に解説していきます。

最初の関門:株式会社と合同会社の徹底比較

会社設立を考え始めたとき、誰もが最初にぶつかる大きな壁。それが「株式会社」と「合同会社」、どちらを選ぶかという問題です。この二つの違いを「設立費用が安いから」「名前がカッコいいから」といった表面的な理由で決めてしまうのはもったいない。その奥にある「設計思想」の違いを理解することこそが、あなたのビジネスにぴったりの会社形態を見つけるための近道です。

すべてはここから!「所有と経営の分離」ってなんだ?

株式会社と合同会社にはたくさんの違いがありますが、その根っこをたどっていくと、たった一つのシンプルな原則に行き着きます。それは、「会社の持ち主(所有者)と、会社を動かす人(経営者)が別々か、同じか」という点です。この大原則さえ理解してしまえば、資金調達の方法や意思決定のスピードがなぜ違うのか、スッキリと腑に落ちるはずです。

株式会社

株式会社は、会社の持ち主である「株主」と、会社の経営を担う「取締役」が、基本的には別人であることを前提に作られた仕組みです。このおかげで、経営には直接タッチしない投資家からも広くお金を集めることができます。もちろん、一人で会社を作る場合は、あなた自身が「株主」であり「取締役」なので「所有と経営」は一致しますが、制度の根っこにはこの「分離」という考え方が流れているのです。  

合同会社

一方の合同会社は、会社の持ち主(出資者)である「社員」と、経営者が同じ人である、というシンプルな仕組みです。お金を出した人が、そのまま経営も行う「所有と経営の一致」が原則。この一体感が、合同会社の強みであるスピーディーな意思決定と、自由な経営スタイルを生み出しているのです。

株式会社と合同会社は根本的に違う

この根本的な設計思想の違いが、世間からの信頼度、設立や維持にかかるコスト、お金の集めやすさ、物事の決め方といった、あらゆる面に影響を与えます。

例えば、株式会社が株式上場(IPO)やベンチャーキャピタルから何億円ものお金を集められるのは、会社の所有権である「株式」を経営権とは切り離して売買できる「所有と経営の分離」というマジックがあるからです。逆に、合同会社の意思決定が驚くほど速いのは、株主総会のような別の組織にお伺いを立てる必要がなく、経営者(社員)たちの話し合いだけで全てを決められる「所有と経営の一致」のおかげなのです。

一目でわかる!どっちを選ぶ?究極の比較表

この根本原則から生まれる具体的な違いを、下の表にまとめてみました。あなたのビジネスプランにはどちらがフィットするか、じっくり見比べてみてください。

表1: 株式会社 vs. 合同会社 核心比較表

項目株式会社合同会社分かりやすく言うと…
社会的信用度高い低い株式会社はルールが厳しく情報公開も義務なので「ちゃんとしてそう」と思われやすいです。
設立費用約20万円~約6万円~株式会社は「定款認証」という手続きが必要で、税金(登録免許税)も高めです。
維持費用7万円~7万円~株式会社でも合同会社でも、法人住民税の均等割で最低7万円かかります。
資金調達いろいろ(IPO、VC、増資など)限られる(融資、仲間からの追加出資など)株式会社は「株」を発行して広くお金を集められますが、合同会社にはその手が使えません。
意思決定株主総会での決議が必要経営メンバーの合意だけでOK所有と経営が分かれているかどうかが直結。合同会社はとにかくスピーディーに物事を決められます。
利益の分け方出資した割合に応じて公平にルールブック(定款)で自由に決められる株式会社は投資額に応じて、合同会社は頑張りや貢献度に応じて利益を分けられます。
役員の任期原則2年(最長10年まで伸ばせる)なし(無期限)株式会社は定期的に株主から信任を得る必要がありますが、合同会社にはその縛りがありません。

あなたはどっち?ビジネスタイプ別・最適解診断

理論がわかったところで、今度はあなたのビジネスの未来予想図と会社形態を重ね合わせてみましょう。会社選びは、ただの手続きではなく、社会に向けた「私たちはこういう会社です」というメッセージにもなります。5年後、10年後のあなたの姿を想像しながら、ベストな選択をしてください。

ケース1: 夢はでっかく!IPOや大型資金調達を目指すなら「株式会社」

推奨形態: 株式会社

理由: 将来、株式市場への上場(IPO)を果たしたり、ベンチャーキャピタルから大きな資金を調達したりして、世の中にインパクトを与えたい!そんな大きな夢を描いているなら、答えは「株式会社」一択です。株式を発行できない合同会社では、これらのダイナミックな資金調達は不可能です。また、株式会社が持つ高い社会的信用度は、優秀な仲間を集めたり、大企業と対等にビジネスをしたりする上でも、強力な武器になります。もし「最初はコストが安いから」と合同会社でスタートしても、後から株式会社に変えるには約2ヶ月の時間と10万円ほどの費用がかかります。その間に、千載一遇のチャンスを逃してしまうかもしれません。明確な成長戦略があるなら、迷わず最初から株式会社を選びましょう。

ケース2: 「好き」を仕事に!スモールビジネスやBtoC事業なら「合同会社」

推奨形態: 合同会社

理由: ネットショップ、カフェ、デザイン事務所、コンサルティングなど、自分のペースで着実に育てていきたいビジネスなら、合同会社が最高のパートナーになるでしょう。最大の魅力は、なんといっても設立費用と維持費をグッと抑えられること、そして経営の自由度が高いことです。変化の速い市場でスピーディーな判断が求められるビジネスや、利益の分け方を貢献度に応じて柔軟に決めたいチームにぴったりです。一般のお客様を相手にするBtoCビジネスでは、会社の形態を細かく気にする人は少ないので、株式会社より信用度が少し低いという点も、それほど大きなデメリットにはならないでしょう。

ケース3: 腕一本で勝負!フリーランスからの法人成りなら「合同会社」

推奨形態: 合同会社 (GK)

理由: フリーランスのITエンジニアやコンサルタントが法人化する一番の目的は、多くの場合、節税(役員報酬にすることで給与所得控除が使える)、社会保険への加入、そして万が一の時のリスクを限定すること(有限責任)です。合同会社は、これらのメリットを最小のコストと手間で手に入れられる、非常に賢い選択肢と言えます。このタイプのビジネスでは、信用の源泉は会社のカタチではなく、あなた自身のスキルと実績。だから、合同会社であることのデメリットは、ほとんどないと言っていいでしょう。  

とはいえ…、何だかんだで、株式会社の方が良い(経験談)

自己資金で始めるし、スモールビジネスを行う会社だし、利益の分け方も自由だし、設立費用も安いし、合同会社って魅力的!合同会社が良い!と思って、合同会社アルクコトを設立しましたが、その2年後、株式会社アルクコトに組織変更しました。

株式会社はメジャー、合同会社はマイナー。株式会社が当たり前、合同会社は信頼度が低い、合同会社はなんだか少し肩身が狭い感じ、というのが実際に合同会社を設立してみて感じたことです。

もし迷っているなら、株式会社にしておいた方が無難です。

【完全手順書】一人で会社を設立する全ステップ

さあ、会社形態が決まったら、いよいよ設立手続きの冒険が始まります。ここでは、一人で会社を作るための全手順を、準備から登記完了後の手続きまで、3つのフェーズに分けて、誰にでも分かるように解説します。特に、今の時代の会社設立に欠かせない、便利なオンラインツールの使い方も詳しくご紹介しますね。

フェーズ1:準備~登記申請の前にやること~

いきなり役所に乗り込む前に、まずは会社の土台をしっかりと固める準備が必要です。

ステップ1:会社の「設計図」を描こう(基本事項の決定)

まず、あなたの会社の骨格となる、以下の項目を決めていきましょう。これらは後で作成する「定款」という会社のルールブックに書き込む、とても重要な情報です。  

  • 商号(会社名)
    あなたの会社の顔です。いくつかルールがあるので、後ほど詳しく説明します。
  • 本店所在地
    会社の公式な住所。自宅でもOKですが、賃貸の場合は契約書で事業利用が禁止されていないか要チェックです。バーチャルオフィスという選択肢もありますが、銀行口座を作るときに少し注意が必要です(Step 8で解説します)。  
  • 事業目的
    あなたの会社が「何をしてお金を稼ぐか」を具体的に書きます。今すぐやる事業だけでなく、将来やりたいと思っていることも書いておくと良いでしょう。最後に「前各号に付帯または関連する一切の事業」という魔法の言葉を付け加えておくと、事業内容が少し増えても定款を変えなくて済むので便利です。  
  • 資本金
    事業の元手となるお金です。いくらにすれば良いかは、後でじっくり解説します。
  • 事業年度
    会社の成績表(決算書)をいつまとめるかを決めます。自由に決められますが、自分のビジネスの忙しい時期を避けるのが一般的です。
  • 発起人
    会社を作ろう!と言い出した人。一人会社の場合は、もちろんあなた自身です。

ステップ2:会社の「顔」になるハンコを作ろう

次に、会社として活動するために必要なハンコを準備します。最低でも、この3つは揃えておきたいところです。

  • 代表者印(実印): 法務局に登録する、会社にとって一番大切なハンコ。重要な契約書などに使います。大きさには「1辺が1cmより大きく、3cmの正方形に収まること」というルールがあります。  
  • 銀行印: 会社の銀行口座を作ったり、お金のやり取りをしたりする時に使うハンコです。代表者印と兼用もできますが、なくした時のリスクを考えて、別々に作るのがおすすめです。
  • 角印: 請求書や見積書など、日常的な書類にポンと押す、会社の認印のようなものです。

これらのハンコは、ネット通販で「法人印鑑3点セット」としてお得に注文できます。ついでに、住所・会社名・代表者名が入ったゴム印(親子印)もセットで頼んでおくと、書類作りが驚くほど楽になりますよ。

ステップ3:会社の「憲法」となる定款を作ろう

定款(ていかん)は、会社の組織や運営のルールを定めた、まさに「会社の憲法」とも呼べる超重要書類です。  

定款には絶対に書かなければいけない「絶対的記載事項」というものがあり、一つでも抜けていると、その定款は無効になってしまいます。  

絶対的記載事項:
商号、事業目的、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額(資本金の額)、発起人の氏名・住所。  

難しそうに聞こえますが大丈夫です。法務局のウェブサイトにテンプレート(ひな形)が用意されているので、それをダウンロードして自分用に書き換えていくのが一番確実です。  

ステップ4:定款に「お墨付き」をもらおう(株式会社のみ)

このステップは株式会社を作る場合だけに必要な手続きで、合同会社との大きな違いの一つです。作った定款が法律的に見て問題ないことを、公証人(こうしょうにん)という法律の専門家に証明してもらう作業です。  

  • どこでやるの?
    会社の本店所在地と同じ都道府県内にある「公証役場(こうしょうやくば)」という場所で行います。  
  • 手続きの流れ
    いきなり訪問するのではなく、まずは公証役場に電話して、作った定款の案をメールかFAXで送って、事前に内容をチェックしてもらいましょう。
    予約した当日に、必要な書類(定款3通、あなたの印鑑登録証明書(発行3ヶ月以内)、実印など)を持っていきます。
    公証役場で認証を受けます。この時、手数料として3万円~5万円ほどかかります。

ステップ5:事業の元手「資本金」を振り込もう

定款の準備ができたら(株式会社の場合は認証が終わったら)、決めておいた資本金を振り込みます。

  • タイミングが重要
    資本金の振り込みは、必ず定款を作った(株式会社は認証の後)に行わなければなりません。  
  • どうやって?
    この時点ではまだ会社の銀行口座はないので、発起人であるあなた個人の銀行口座に、あなた自身の名前で振り込みます。通帳に「誰が」「いくら」振り込んだかという記録をしっかり残すことが目的です。  
  • 証拠書類を作る
    振り込みが終わったら、「払込証明書」という書類を作ります。これは、振り込みが記帳された通帳の「表紙」「口座名義人がわかるページ(表紙の裏など)」「振り込み記録があるページ」の3つをコピーし、証明書と一緒にホチキスで留めて作成します。

フェーズ2:法務局で設立登記申請

すべての準備が整いました。いよいよ最終目的地の法務局へ、会社の誕生を届け出ます。

ステップ6:すべての書類を揃えて、法務局へ提出!

登記申請とは、会社の情報を法務局のデータベースに登録してもらい、社会的に「会社」として認めてもらうための最終手続きです。

  • 提出期限
    資本金を振り込んでから、2週間以内と決められています。  
  • あなたの会社の誕生日
    法務局に登記申請書を提出した日が、あなたの会社の設立日(創立記念日)になります。  
  • 必要な書類たち
    株式会社の場合: 登記申請書、登録免許税を貼る台紙、認証済みの定款、資本金の払込証明書、役員の就任承諾書、印鑑届出書など、たくさんの書類が必要です。  
    合同会社の場合: 株式会社と似ていますが、定款の認証が不要な分、少しだけシンプルです。
  • 提出方法は3つ
    窓口へGO!:会社の本店所在地を管轄する法務局へ直接持っていきます。もし書類にちょっとしたミスがあっても、その場で教えてもらえるのがメリットです。
    郵送で送る:郵送でも申請できます。ちゃんと届いたか確認できるように、簡易書留などで送りましょう。
    オンラインで申請:最も現代的で、おすすめの方法です。

DIY設立の常識を変えたデジタル革命

昔は、自分で会社を作るなんて、書類の山と格闘する大変な作業でした。でも、今は違います。国や民間企業が提供する素晴らしいオンラインサービスのおかげで、そのハードルは劇的に下がりました。  

  • 法人設立ワンストップサービス
    国が運営しているサービスで、設立登記から税務署などへの届出まで、いくつかの手続きをまとめてオンラインで済ませることができます。  
  • 民間クラウドサービス(freee会社設立、マネーフォワード クラウド会社設立など)
    これらのサービスは、もはや革命的です。専門知識がなくても、まるでチャットで質問に答えるように情報を入力していくだけで、必要な書類一式を自動で作成してくれます。特にすごいのが、株式会社の定款を電子データで認証する「電子定款」に対応している点。これを使うと、紙の定款で必要だった4万円の収入印紙が不要になり、コストを大幅にカットできます。もはや、これらのオンラインツールを使わない手はありません。これこそが、現代の会社設立の新しい常識です。

フェーズ3:会社誕生!でも、まだ終わりじゃない(設立後の手続き)

登記が完了し、あなたの会社が産声を上げました!おめでとうございます!でも、まだやるべき大切な手続きが残っています。

ステップ7:いろんな役所にご挨拶回り(届出)

登記が終わったら、なるべく早く以下の役所に「会社ができました!」という届出をします。提出期限が短いものもあるので、一気に片付けてしまいましょう。  

  • 税務署
    「法人設立届出書」や、節税に有利な「青色申告の承認申請書」、「給与支払事務所等の開設届出書」などを提出します。  
  • 都道府県税事務所・市町村役場
    国の税金とは別に、地方税のための「法人設立届出書」も提出します。  
  • 年金事務所
    「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出。一人社長でも社会保険への加入は義務です。  
  • 労働基準監督署・ハローワーク
    従業員を雇うことになったら、労働保険や雇用保険の手続きが必要になります。

ステップ8:会社の銀行口座を作ろう(法人口座の開設)

会社のお金を管理するための、法人口座を開設します。しかし、近年、マネー・ローンダリング(犯罪資金の洗浄)を防ぐため、この口座開設の審査が非常に厳しくなっています。  

  • バーチャルオフィスの壁
    特に、バーチャルオフィスを本店所在地にしていると、「本当にそこで事業をやっているの?」と疑われやすく、銀行は審査にとても慎重になります。  
  • 審査突破の鍵はこれだ!
    情熱を伝える事業計画書:あなたのビジネスがどんなに素晴らしく、どうやって儲けるのかを具体的に書いた「事業計画書」は、もはや必須アイテムです。
    会社の顔、ウェブサイト:会社の公式ウェブサイトは、単なる宣伝道具ではありません。「私たちは実在します!」と証明するための、信頼の証です。  
    本気度を示す資本金:資本金1円は、銀行に「この会社、本気かな?」と思わせてしまいます。最低でも数十万円、できれば100万円くらい用意すると、事業への覚悟を示すことができます。  
    信頼できるバーチャルオフィス選び:メガバンクやネット銀行との口座開設実績が豊富な、信頼できるバーチャルオフィスを選びましょう。提携銀行を紹介してくれるところもあります。  
  • ネット銀行から攻める: 住信SBIネット銀行、GMOあおぞらネット銀行、PayPay銀行といったネット銀行は、新しい会社やバーチャルオフィス利用者に比較的フレンドリーな傾向があります。まずはここから挑戦してみるのも良い作戦です。

設立費用の全貌:自分でやる vs 専門家に依頼する

会社設立にいくらかかるのか、これは誰もが気になるところですよね。費用は、選ぶ会社の種類と、設立の方法によって大きく変わります。ここでは、いくつかのパターンを想定して、費用のリアルな全体像を見ていきましょう。「時は金なり」と言いますが、会社設立もまさにそれ。費用だけでなく、自分の時間というコストも天秤にかけることが大切です。

費用ガチンコ対決:株式会社 vs 合同会社

下の表は、株式会社と合同会社を作るのにかかる費用を、「①昔ながらの紙の定款で自力でやる場合」「②今どきの電子定款で自力でやる場合」「③プロにおまかせする場合」の3パターンで比較したものです。

表2: 会社設立費用 詳細比較表(株式会社・合同会社)

費用項目株式会社
自分で紙定款
株式会社
自分で電子定款
株式会社
専門家依頼
合同会社
自分で紙定款
同会社
自分で電子定款
合同会社
専門家依頼
定款用収入印紙40,000円0円0円40,000円0円0円
定款認証手数料32,000~52,000円32,000~52,000円32,000~52,000円0円0円0円
登録免許税150,000円150,000円150,000円60,000円60,000円60,000円
専門家報酬/サービス料0円約0~5,000円50,000~100,000円0円約0~5,000円30,000~90,000円
その他諸費用約10,000円約10,000円約10,000円約10,000円約10,000円約10,000円
総費用
(目安)
約232,000円〜約192,000円〜約242,000円~約110,000円〜約70,000円約100,000円~

コスト削減の切り札!電子定款と会社設立支援サービス

この表を見れば一目瞭然。コストを抑える最大のカギは「電子定款」にあります。

  • 電子定款
    これを使うだけで、紙の定款に貼る必要があった4万円の収入印紙代がまるまる浮きます。自分で設立するなら、これが一番効果的な節約術です。ただ、個人で電子定款を作るには、専用のソフトやカードリーダーなどが必要で、ちょっとだけ技術的なハードルがあります。  
  • 会社設立支援サービス(freee会社設立、マネーフォワード クラウド会社設立など)
    この技術的なハードルを、いとも簡単に乗り越えさせてくれるのが、これらのオンラインサービスです。私たちは、分かりやすい画面の指示に従ってポチポチ入力するだけ。あとはサービス側が提携している専門家を通じて、電子定款を作って認証までしてくれます。多くの場合、数千円の手数料か、会計ソフトの契約をすれば無料でこのサービスが使えるので、まさに「完全な自力」と「専門家へ丸投げ」のいいとこ取り。今、急速にスタンダードになりつつある方法です。

    freee会社設立は、直感的に使えるデザインが人気で、「知識ゼロでも迷わない」と起業初心者から絶大な支持を得ています。
    マネーフォワード クラウド会社設立も、無料の電子定款作成はもちろん、会社ができた後のサポートが手厚いのが魅力です。
    弥生のかんたん会社設立も強力なライバルで、無料の電子定款作成機能に加えて、専門家への丸投げプランも用意されています。

「時間を買う」という選択肢。専門家(司法書士・行政書士)への依頼

オンラインサービスがこんなに便利な時代に、なぜ高いお金を払って専門家にお願いする意味があるのでしょうか?その答えは、専門家が提供してくれる価値が、単なる「書類作り」ではなく、「未来を見据えた戦略的なアドバイス」にあるからです。

ソフトウェアは、あなたが入力した情報通りに、完璧な書類を作ってくれます。でも、その入力した情報が、あなたのビジネスにとって本当にベストな選択なのかまでは判断してくれません。経験豊富な専門家は、ソフトウェアにはできない、こんな価値を提供してくれます。  

  • 事業目的の最適化
    将来の事業展開や、ビジネスに必要な許認可のことまで考えて、戦略的な事業目的の書き方をアドバイスしてくれます。
  • 資本金の額のコンサルティング
    銀行から融資を受けやすいか、取引先から信用されるか、といった視点から、あなたのビジネスに最適な資本金の額を一緒に考えてくれます。
  • オーダーメイドの定款設計
    将来の事業承継や、仲間が増えた時のことなど、長期的な視点であなたの会社だけの特別なルール作り(定款)を手伝ってくれます。

手続きが不安な人、複雑なビジネスを考えている人、そして何より「面倒な手続きにかける時間を、本業のビジネスを考える時間に使いたい!」と考える人は専門家へ依頼しましょう。  

とはいえ…、それほど難しくないので自分でやれば良い(経験談)

自分でやった方が会社設立の実感が湧きますし、一生に一度の経験になるかもしれないので、自分でできそうなら、やってみた方が良いと思います。

一人社長が知るべき重要知識と実践的アドバイス

会社設立はゴールではなく、始まりの合図です。ここでは、無事に登記を終えたばかりの一人社長が、すぐに直面するであろうリアルな課題について、先輩としてアドバイスを送ります。

初心者がハマりがちな「3つの落とし穴」と脱出法

会社設立には、法律上はOKでも、実際にビジネスを始めると「しまった!」となる落とし穴がいくつかあります。これを知っておくだけで、未来の大きなトラブルを避けられますよ。

落とし穴1: 資本金1円の甘い誘惑

2006年の法律改正で、資本金1円でも会社が作れるようになりました。でも、これはあくまで法律上の話。実際に資本金1円で会社を始めると、ビジネスの世界ではかなり厳しい現実に直面します。

これが現実!致命的なデメリット:

  • 信用ゼロからのスタート
    取引先や銀行から見れば、「この会社、明日には潰れるんじゃないか?」と思われても仕方ありません。結果、取引を断られたり、不利な条件を突きつけられたりします。  
  • 銀行口座が作れない!?
    銀行は、資本金が極端に少ない会社を「怪しい…」と警戒し、口座開設を断ることが非常に多いです。これはマネー・ローンダリング対策が厳しくなっているためです。  
  • 融資や許認可の厚い壁
    銀行からの融資はまず無理でしょう。また、建設業や人材派遣業など、ビジネスを始めるのに一定の資本金が必要な許認可も取れません。  

脱出法:

資本金は「最初に必要な経費+3~6ヶ月分の運転資金」を目安に準備するのがリアルな数字です。もし具体的な金額がわからなくても、最低100万円ほど用意しておけば、社会的な信用度もグッと上がります。ただし、資本金を1,000万円以上にすると、設立1年目から消費税を払う義務が生じるので、特別な理由がなければ1,000万円未満に抑えるのが賢い選択です。

落とし穴2: ふわっとしすぎな事業目的

定款に書く事業目的は、内容が狭すぎても、逆に広すぎても問題になります。

何が問題?:

  • 狭すぎる場合
    新しいビジネスチャンスが目の前に現れても、定款に書いていないと事業を始められません。そのたびに、数万円の費用と手間をかけて定款を変える羽目になります。
  • 広すぎる場合
    「コンサルティング業」のように、あまりにフワッとしていると、銀行や取引先が「で、この会社は結局何屋さんなの?」と不安になり、信用を失ってしまいます。

脱出法:

今やっている事業と、将来やりたい事業を合わせて、5~10個くらい具体的に書き出しましょう。そして、最後に必ず「前各号に付帯または関連する一切の事業」という魔法の呪文を付け加えておくこと。これで、多少の事業拡大なら柔軟に対応できます。

落とし穴3: うっかり決めた会社名

会社の名前を決める時は、思いつきだけでなく、事前のリサーチが絶対に必要です。

何が問題?:

  • 有名企業と間違われない?
    みんなが知っているような有名な会社と紛らわしい名前をつけると、後から「名前を変えなさい!」と訴えられるリスクがあります(不正競争防止法)。  
  • ドメインやSNSアカウントが取れない
    ブランディングがスムーズに進まなくなります。

脱出法:

登記を申請する前に、法務局のオンラインサービスなどで、似たような名前の会社がないかチェックしましょう。同時に、その名前でドメイン(ホームページのアドレス)やSNSのアカウントが取れるかも調べておきましょう。

あなたの給料どう決める?役員報酬と社会保険料のリアルな話

社長にとって、自分の給料(役員報酬)をいくらにするかは、会社の懐事情と自分の生活を左右する、超・重要マターです。

  • 絶対ルール「定期同額給与」
    自分の給料を会社の経費として認めてもらうには、絶対的なルールがあります。それは「事業年度が始まってから3ヶ月以内に金額を決めて、その1年間は毎月同じ額を支払う」というもの。業績が良いからといって、気分で金額を変えることはできないのです。
  • 税金と社会保険料のシーソーゲーム
    役員報酬の額は、会社が払う「法人税」と、あなたが個人で払う「所得税・住民税・社会保険料」のバランスで決まります。

    給料を高くすると: 会社の利益が減るので法人税は安くなりますが、個人の税金と社会保険料の負担がズッシリ重くなります。
    給料を低くすると: 個人の負担は軽くなりますが、会社の利益が増えるので法人税が高くなります。それに、個人の収入が低いと、家を買うときの住宅ローン審査に通りにくくなる、なんてこともあります。  
  • 社会保険料の衝撃: サラリーマン時代は気づきにくいのですが、実は社会保険料は会社が半分払ってくれていました。社長になると、その「会社負担分」も自分で払うことになるのです。これは報酬額のおおよそ30%近くにもなり、多くの新米社長が「えっ、こんなに!?」と驚くポイントです。  

下のシミュレーションで、給料の額が手取りにどう影響するか、リアルな数字を見てみましょう。

表3: 役員報酬と社会保険料・税金のシミュレーション(東京都・40歳未満の場合の概算)

役員報酬月額健康保険料厚生年金保険料社会保険料合計所得税・住民税(概算)手取り月額(概算)
200,000円19,960円36,600円56,560円約8,500円約134,940円
300,000円29,940円54,900円84,840円約18,000円約197,160円
500,000円49,900円91,500円141,400円約48,000円約310,600円

会社の誕生日を戦略的に決める!プロの段取り術

会社の設立日を、自分の誕生日や記念日、縁起の良い日にしたい!そう考える人は多いはず。もちろん、可能です。しかし、プロの起業家は、設立日を単なる記念日ではなく、会社の資金繰りや税金戦略に関わる重要な日として捉えています。ここでは、その戦略的な段取り術を伝授します。

基本ルール:設立日は「登記申請日」

まずは基本から。会社の誕生日は、登記手続きが完了した日ではなく、法務局に申請書を提出した日になります。そして、法務局は土日祝日や年末年始はお休みなので、これらの日を設立日にすることはできません

戦略的視点①:繁忙期を避け、決算・納税のタイミングから逆算する

会社は、年に一度の決算月の末日(決算日)から2ヶ月以内に、その事業年度の会計を締め、税務署へ確定申告を行い、法人税などを納税しなければなりません。これは、想像以上にタイトなスケジュールです。  

もし、この決算作業と税務申告で慌ただしくなる2ヶ月間が、あなたのビジネスの最も忙しい時期(繁忙期)と重なってしまったらどうでしょう? 本業の対応に追われながら、慣れない決算作業もこなすことになり、業務量がパンクしてしまったり、ミスが起きやすくなったりする可能性があります。  

だからこそ、多くの先輩起業家は、事業が比較的落ち着いている閑散期に決算月が来るように戦略的に設定します。そして、この理想のスケジュールを実現するためには、設立日から最初の決算日まで、できるだけ期間を長く取ることが重要になります。例えば、決算月を3月にしたいなら、設立日を前年の4月や5月に設定するのです。これにより、事業を軌道に乗せる時間を十分に確保し、落ち着いて最初の決算と納税に備える余裕が生まれます。

戦略的視点②:消費税の免税メリットを最大化する

さらに、資本金1,000万円未満の会社は、原則として設立から最大2年間、消費税の支払いが免除されるという大きなメリットがあります。この恩恵を最大限に受けるコツも、第1期目の事業年度をできるだけ長くすることです。設立日を月の初めにし、決算月をその約1年後に設定すれば、免税期間をほぼ丸2年間享受できる可能性が高まります。

戦略的視点③:設立日を「2日以降」にする節税術

もう一つ、知る人ぞ知るプロのテクニックがあります。それは、設立日をキリの良い「1日」ではなく、あえて「2日以降」に設定することです。

なぜなら、会社が赤字でも支払う義務のある「法人住民税の均等割」という税金は、月割りで計算されるのですが、その際に1ヶ月に満たない端数は切り捨てられるという特殊なルールがあるからです。つまり、設立日を「1日」ではなく「2日」にするだけで、最初の月は月数計算から除外され、初年度の法人住民税が1ヶ月分(約6,000円弱)安くなるのです。  

戦略的視点④【上級編】:融資を見据えた「あえて短い1期目」戦略

ここまでは節税や事務負担軽減の観点から「第1期を長くする」のがセオリーだと解説しました。しかし、これとは全く逆の戦略を取る起業家もいます。それは、設立後できるだけ早く銀行融資を受けたい場合に、「あえて第1期を短くして、黒字の決算書を作る」という高度な戦術です。

  • なぜこの戦略が有効なのか?
    銀行が融資の審査をする際、設立直後で決算書がない場合は「創業計画書」という事業の青写真で判断します。しかし、一度でも決算を終えると、その「決算書」という実績が審査の土台になります。たとえ数ヶ月分であっても、黒字の決算書を提出できれば、「この会社は計画通りに利益を出せる」という何よりの証明となり、融資の交渉が有利に進む可能性があるのです。  
  • 具体的にどうする?
    例えば、10月に会社を設立し、決算月を12月に設定します。すると、第1期はわずか3ヶ月弱になります。この短期間に集中して売上を立て、黒字を確保することで、年明け早々には「黒字の実績」が記載された決算書を手にすることができるのです。
  • ただし、大きな代償も。
    この戦略は、消費税の免税期間を最大化するというメリットを捨てることになります。そして、融資審査の土俵が変わる点も理解せねばなりません。決算書がない創業直後の融資は「事業計画書」を元に将来性を評価されますが、一度でも決算を終えると、その「決算書」という実績が評価の主軸に切り替わります。つまり、「計画だけで評価してもらえる」という創業時特有のチャンスを手放し、良くも悪くも「数字」で判断されるステージに自ら進むことになるのです。さらに、創業期は無理に黒字化を目指すより、事業投資に資金を回して成長を優先すべきだという考え方もあります。  

の方法は、「設立初期から確実に利益を出せる見込みがあり、かつ、何よりも早期の追加融資を最優先したい」という明確な目的を持つ起業家向けの、まさに上級テクニックと言えるでしょう。

結論:プロの段取り術とは

  • まず、あなたのビジネスの繁忙期を避け、資金に余裕がありそうな時期を未来の決算月として仮決めします。  
  • その決算月から遡って、約1年前の月を設立ターゲット月間に設定します。
  • そのターゲット月間の中で、記念日や縁起の良い日、そして節税メリットのある「2日以降」の日付をピンポイントで選び、その日を設立日(=登記申請日)とします。
  • 最後に、その日に向けて、ハンコの作成、書類準備、定款認証(株式会社の場合)といったすべての準備を、余裕を持ったスケジュールで逆算して進めていくのです。
  • これが、単なる思いつきではない、戦略的な設立日の決め方です。

まとめ

一人で会社を設立する。それは、たくさんの決断を乗り越えていく、まさに社長としての始まりです。このガイドで解説してきたことの核心を、最後にもう一度おさらいしましょう。

  • 戦略的な選択: 将来、ビジネスを大きくしたり、外部から資金を集めたりしたいなら株式会社。コストを抑えて、自由でスピーディーな経営をしたいなら合同会社。これが基本の考え方です。ですが、経験的には株式会社の方が無難です。
  • 現代的な手法: 会社設立は、もはや専門家に大金を払うか、書類の山と一人で戦うかの二択ではありません。「freee会社設立」のようなオンラインサービスを賢く使ったDIY設立が、コストと手間の両方で最もバランスの取れた、新しい時代のスタンダードです。
  • 知識という武器: 資本金をいくらにするか、事業目的をどう書くか、自分の給料をどう決めるか。設立の時に下した判断が、会社の信用力やお金の流れ、税金の額に直接響いてきます。事前にこれらの知識で武装することが、成功への第一歩です。

忘れないでください。会社を設立することは、ゴールではなく、始まりの合図です。本当に大切なのは、その先にあるあなたのビジネスそのものを、どう育てていくかです。

このガイドが、あなたが会社設立手続きという最初のハードルを軽やかに飛び越え、本来情熱を注ぐべき事業の創造へと、力強く踏み出すための一助となれば、これ以上の喜びはありません。

あなたの挑戦が、輝かしい未来へと繋がることを心から応援しています。