社長さん、これからの人生を考える「壁打ち」の時間を持ってみませんか?

安心パートナーと壁打ち 一人社長ブログ
この記事の監修者・著者

2006年に合同会社を設立。2008年に株式会社へ組織変更。社員2人〜4人の小さな会社を5年経営後、一人会社・一人社長となり15年。

WebとAIを活用して様々なスモールビジネスを展開中。集客の仕組み化が得意。一人会社・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富で、日本全国にクライアントがいます。

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自宅兼オフィスに一人。その静寂が問いかけるもの

誰もが羨む「自由な働き方」の裏側で、たった一人、すべての責任を背負う現実。その静けさの中で、ふと胸の奥から声が聞こえてきます。

「何のために、ここまでやってきたんだろう?」「私の人生って、これであってるのかな?」「この先はどう進んでいけばいいのだろう?」「私にとっての本当の幸せって何だろう?」

それは、日頃思考を支配しているビジネスの問いとは全く異質のものです。もっと根源的で、答えを出しにくい、しかし無視することのできない問いです。

一人社長や、数名の社員を抱える小さな会社の社長にとって、最も手強い競争相手は市場のライバルではなく、「自分自身の人生の目的を見失いがちになる」という現実かもしれません。

本記事では、なぜ多くの経営者がこの感覚に苛まれるのかを深掘りし、その状況を打開するための強力でありながら、しばしば誤解されている対話の手法――「壁打ち」について探求していきます。

壁打ちは、単なるビジネス相談ではありません。普段は人に見せない素の自分をさらけ出し、思考と感情を整理するための、大切な時間なのです。

今回は人生についての壁打ち記事です。ビジネスの壁打ちについてはこちらの記事をご覧ください。

社長を囲む四つの壁:あなただけが背負う、目に見えない重圧

社長の孤独は、単なる「寂しい」という感情ではありません。それは、社長という立場が必然的に生み出す、構造的な現実です。

この章では、一人社長や小規模企業の経営者が日々直面している、目には見えない、しかし確かな重圧を「4つの壁」というフレームワークで解き明かし、あなたが抱える「負担」の正体を言語化していきます。

財務の壁

お金の悩みは、単なる売上数字の問題ではありません。それは、経営者の人生そのものに直接影響を与える、冷徹な現実です。

多くの経営者が金融機関から融資を受ける際に求められる「経営者保証」。これは、万が一会社が倒産した場合、社長個人がその負債を返済する義務を負うことを意味します。

家族と暮らす家、子どもの教育資金、そして自らの老後資金までもが、事業の浮沈と直接的に結びついています。この個人的なリスクは、24時間365日、経営者の肩に重くのしかかります。

たとえ事業が黒字であっても、入金サイクルのズレによって手元の現金が枯渇する「黒字倒産」のリスクは常につきまといます。

業績が悪化すれば、自らの役員報酬をゼロにしてでも会社を存続させなければならない局面も訪れます。自分が最後に給料を受け取る存在であるという事実は、従業員がいれば、従業員の生活を守るという責任の重みを日々突きつけます。

そして、お金の心配は、資金繰りが厳しい時だけに訪れるわけではありません。むしろ、多くの経営者が事業がうまくいき、手元にお金がある時ほど、強い不安を感じると語ります。

得た利益を会社の将来の成長のために再投資しなければならないというプレッシャー(この判断は本当に正しいのか、資金が溶けていくだけではないか)や、この好調な状態がいつまで続くか分からない不安(経営者自身の自信のなさ)があるからです。  

この絶え間ない資金繰りの不安は、経営判断を鈍らせ、精神をすり減らす最大の要因の一つです。

業務の壁

一人社長にとって、自らが最高経営責任者(CEO)であり、マーケティング部長であり、顧客対応担当であり、時には清掃員でもあるという現実は、決して大げさな表現ではありません。

事業のあらゆる側面を一人で担うため、得意な戦略策定に時間を割けず、苦手な事務作業に忙殺される日々が続きます。

社員が数名いる場合でも、状況は本質的に変わりません。あらゆる問題の最終的な受け皿は社長自身であり、戦略家から営業マン、そして経理担当へと、常に複数の役割を同時にこなすことが求められます。

この過剰な業務負荷こそが、「人生について考える時間」を物理的に奪い去る直接的な原因となります。

自分の頑張りが、そのまま事業の成長の限界点になってしまうというジレンマは、多くの小規模企業経営者が直面する深刻な課題です。

心身の壁

経営者が背負う精神的・肉体的な負荷は計り知れません。自らが倒れれば事業が完全に停止するという恐怖から、病気や怪我をしても休むことができません。常に頭のどこかで仕事のことが離れず、ぐっすり眠れない日々が続きます。もしくは疲れすぎて倒れるように眠ります。

そして、「孤独」という静かな問題が、心を少しずつすり減らしていきます。事業の成功を心から分かち合える相手はおらず、失敗の苦しみは誰にも打ち明けられずに一人で抱え込みます。

帝国データバンクの調査によれば、実に8割以上の中小企業経営者が「経営上の悩みを相談できる相手がいない」と回答しています。

この孤独感は、自らが情熱を注いで創り上げた事業に対する熱意さえも奪い去る「燃え尽き症候群(バーンアウト)」へとつながっていきます。

感情がすり減り、何事にも冷めた態度をとり、達成感を感じられなくなるのは、気づかぬうちに経営者を蝕む危険なサインなのです。

未来の壁

会社がどこへ向かうのか、そのビジョンを描き、最終決断を下すのは社長一人です。事業が軌道に乗り、次の一手を考える時、「人を雇うか否か」という決断は、単なる経営戦略ではなく、他人の人生を背負うという覚悟を問う、重い選択となります。

そして、事業の「終わり」を考えるという、さらに重い課題が待ち受けます。この事業を誰かに引き継ぐのか、売却するのか、それとも自分の代で終わりにするのか。事業承継や廃業は、単なるビジネス上の決定ではなく、自らのアイデンティティそのものを問い直す、人生を賭けた決断です。

特に、先代から事業を受け継いだ二代目、三代目の経営者にとっては、「辞めたい、でも辞められない」という葛藤が、受け継いだ看板の重圧となって常に付きまといます。

これら4つの壁は、バラバラに存在するわけではありません。それらは互いに影響し合い、状況をさらに悪化させることで、経営者を逃げ場のない状況へと追い込んでいきます。

例えば、財務の壁(資金繰りの悪化)は、社長が自ら現場に出て長時間労働をせざるを得ない状況(業務の壁)を生み出します。その結果、心身は疲弊し、孤独感は深まり(心身の壁)、会社の将来を冷静に考える余裕を失わせます(未来の壁)。

この悪循環こそが、多くの経営者が「何かに囚われている」と感じる構造的な原因なのです。

さらに深刻なのは、社長のアイデンティティが事業そのものと深く融合してしまうことです。事業への献身は、いつしか公私の境界線を曖昧にし、家庭生活での問題(例えば、長時間労働による夫婦関係の悪化)でさえも、リーダーとしての個人的な失敗として自分の中に抱え込んでしまいます。

このアイデンティティの融合は、強烈な羞恥心を生み出し、「人生」に関する悩みを打ち明けることが、あたかも「ビジネス」の失敗を認めることのように感じさせ、誰かに相談することを極めて困難にしているのです。

身近な人には、なぜ本音を話せないのか

誰かに話したい。この重圧を分かち合いたい。その渇望は、多くの経営者が抱える切実な願いです。

しかし、最も身近な存在であるはずの人々が、皮肉にも、その役割を果たすには最も不向きであることが多いです。

この章では、なぜ従業員、家族、友人、そしていつもの専門家が、あなたの本当の相談相手にはなり得ないのか、その心理的な力学を解き明かします。

社員・従業員:リーダーとしての立場

部下や社員に、心の底からの不安や弱みを見せることはできません。それは、彼らの生活の安定や、リーダーであるあなたへの信頼を根底から揺るがしかねないからです。

リーダーは、たとえ答えを持っていなくても、答えを持っているかのように振る舞うことを期待される存在です。そこには明確な立場の違いがあり、対等な立場での本音の対話は構造的に不可能なのです。

彼らはあなたの部下であり、あなたの庇護を必要としています。その関係性の中で、あなたが庇護を求めることは許されません。

家族:心配をかけたくないという想い

配偶者や家族は、あなたが最も守りたいと願う存在であるはずです。だからこそ、資金繰りの本当の恐怖や、事業の将来に対する「このままでいいのだろうか」という根源的な疑念を、ありのままに伝えることはできません。

その重荷を共有することは、安心をもたらすどころか、愛する人に不安をうつしてしまうだけの行為になりかねません。

この「心配をかけたくない」という優しさが、結果として家庭内での孤独を深め、最も近いはずの存在との間に見えない壁を築いてしまうという悲劇を生みます。

友人:経験からくる理解の限界

起業という道を選ばなかった友人たちは、良き理解者ではあっても、その世界の本当の厳しさを肌で知ることはありません。

「たまには休めばいいじゃないか」といった善意からのアドバイスが、どこか現実離れしていて、時には心を抉るようにさえ聞こえてしまうことがあるのはそのためです。

彼らとの間には、経験に根差した埋めがたい「共感のギャップ」が存在します。彼らはあなたの人生を心配してくれますが、安定したサラリーマンである彼らが、あなたの事業と人生が一体化した、その重圧のリアリティを真に理解することはできません。

専門家(いつもの相談相手)

税理士、弁護士、あるいは多くのビジネスコンサルタントは、特定の分野における専門家です。財務や法務といった具体的な問題を解決する上では、彼らは非常に頼りになる存在です。しかし、彼らの専門領域は限定的です。

彼らは、事業運営の感情的な負荷や、目的を見失った虚しさ、ビジネスと人生が複雑に絡み合った悩みを議論するための訓練を受けてはいません。

彼らとの関係は本質的に「取引」であり、あなたの人生を変えるような「変革」をもたらす対話にはなり得ません。

このように、あらゆる相談の選択肢が塞がれている状況は、経営者の心に「弱さを見せられない状況」を生み出します。弱さを見せる安全な場所がないため、経営者はすべてのストレス、疑念、恐怖を自分の中に溜め込むしかなくなるのです。

この状況で生き抜くために、多くの経営者が無意識のうちに「強いリーダーでいなければ」という役割を演じてしまいます。それは、古くは武士道に代表されるような、感情を表に出さず、常に強く、冷静沈着であるべきだという日本の伝統的なリーダー像とも重なります。

しかし、この完璧なリーダー像は、時として自分自身を追い詰めます。それは失敗から学ぶ機会を奪い、共感を遠ざけ、燃え尽きを加速させます。そして何より、その役割の下で、経営者自身がゆっくりと息苦しさを感じていくのです。

「壁打ち」とは何か:アドバイスではなく、思考の整理を

解決策は、より優れたアドバイスを持つ相談相手を見つけることではありません。全く異なる種類の「対話」を見つけることにあります。

この章では、実はあなたが心の底で求めていた対話の形、「壁打ち」を定義し、他のサポート形式との違いを明確にすることで、自らのニーズを的確に言語化するための新たな視点を提供します。

「壁打ち」とは何か?

「壁打ち」とは、テニスプレイヤーが壁に向かってボールを打ち、その跳ね返りを確認しながらフォームを調整する練習に由来する言葉です。

ビジネスにおける壁打ちの目的もこれと全く同じです。壁役の相手に、自分の考えやアイデア、悩みなどを言葉にして「打ちます」。

重要なのは、壁が何か新しいボールを打ち返してくることではありません。自らが放ったボール(言葉)が、どのように跳ね返ってくるか(自分の耳にどう聞こえるか)を確認することにあります。

それは、頭の中にある混沌とした思考を、言語化というプロセスを通して外部に取り出し、客観的に眺める行為です。

話しているうちに、自らの思考の矛盾や論理の飛躍、見落としていた点、そして本当に大切にしたい核となる部分が、まるで霧が晴れるように見えてきます。これが壁打ちの本質です。

がっかりする壁打ち

しかし、誰もが良き「壁」になれるわけではありません。むしろ、多くの対話は「がっかり壁打ち」に終わりがちです。その典型的な失敗パターンは3つあります。

  • アドバイザー役
    あなたが話し始めるとすぐに、「それはこうすべきだ」「私ならこうする」と自らの意見や成功体験を語り始め、対話の主導権を奪ってしまうタイプです。あなたが求めているのは思考の整理であるにもかかわらず、相手は問題解決のための「答え」を押し付けてきます。
  • ジャッジ役
    あなたのアイデアや悩みに対して、「それは無理だろう」「現実的じゃない」と即座に否定的な評価を下すタイプです。まだ生まれたばかりの思考の芽は、この冷たい評価によって、育つ前に摘み取られてしまいます。
  • ミスマッチ役
    善意はあるものの、あなたの話の前提となるビジネスの解像度や視座が大きく異なり、話が全く噛み合わないタイプです。対話は表層的になり、あなたは「この人には伝わらない」という徒労感だけを感じることになります。

これらの「がっかり壁打ち」は、あなたが本当に必要としている「思考のための安全な空間」を破壊してしまいます。

理想的な壁役とは、答えを持つ専門家ではなく、評価を下さない、ただただあなたの言葉を受け止め、打ち返しやすいボールを跳ね返してくれる、純粋な反射板のような存在なのです。

社長のためのサポート形式 比較分析

経営者が求めるサポートは多岐にわたります。しかし、自らの状況に応じて最適な対話の形式を選択できているでしょうか。

以下の表は、あなたが今、本当に必要としている対話の形を特定するための一助となるでしょう。

特徴壁打ちコンサルティングコーチングメンタリング
主目的思考整理、アイデアの言語化、内省の深化特定課題の解決、専門的知見や解決策の提供目標達成、潜在能力の開花、行動変容の促進経験や知見の伝達、キャリアや人生の長期的支援
パートナーの役割傾聴と反射に徹する「壁役」。思考を引き出す問いかけを行う特定分野の「専門家」。分析し、診断し、具体的な答えを提示する対話を通じて「気づき」を引き出す伴走者。答えはクライアントの中にあると考える経験豊富な「指導者・助言者」。自らの経験を基にアドバイスを行う
対話の焦点話し手自身の思考プロセス、感情、未整理のアイデア外部環境、市場データ、組織の構造、具体的な経営課題話し手の目標、価値観、強み、行動計画話し手のキャリアパス、人間的成長、公私にわたる悩み
期待される成果思考の明確化、自己理解の深化、新たな視点の獲得、意思決定の質の向上具体的な戦略立案、業務プロセスの改善、問題の直接的な解決自発的な行動、目標達成、自己実現スキルや知識の向上、精神的な安定、長期的視点での成長

多くの経営者が直面する問題の根源は、情報の不足ではなく、思考の混乱にあります。

社長は日々、膨大な情報と無数の選択肢に晒されています。必要なのは、外部から新たな情報を加えることではなく、内部にある情報を整理し、優先順位をつけ、自らの直感を信じられる状態を取り戻すことです。

この表が示すように、経営者が「どうしたらいいか分からない」という漠然とした停滞感を抱えている時、それは多くの場合、コンサルタントによる「情報の処方箋」を必要としているのではなく、壁打ちパートナーによる「思考の整理」を必要としているサインなのです。

このニーズの自己診断を誤ることが、多くの「がっかり壁打ち」や、効果の薄いコンサルティングへの投資につながっています。

なぜ話すだけで、思考が整理されるのか

「壁打ち」がもたらす「あっ、そうか!」というひらめきの瞬間は、魔法や偶然ではありません。それは、認知科学と心理学に裏打ちされた、必然的なプロセスです。

この章では、なぜ「話すこと」が「考えること」を劇的に進化させるのか、そのメカニズムを解き明かします。

頭の中のモヤモヤを、言葉で整理する

私たちの脳内では、常に無数の思考、感情、記憶、そして外部からの情報が混沌とした状態で渦巻いています。この頭の中のモヤモヤを、私たちは「話す」という行為を通じて、一つの線的な構造、つまり「言葉」に変換します。

この言語化のプロセス自体が、強力な思考整理ツールとして機能するのです。

  • 選択と構造化
    話すためには、混沌の中からどの思考を選び、どのような順序で組み立てるかを決めなければなりません。この無意識の編集作業が、思考に論理的な構造を与えます。
  • 客観視
    口に出された言葉は、自分の耳を通して再び自分自身にフィードバックされます。これにより、今まで主観的な思考の渦の中にあったアイデアを、まるで他人のものであるかのように客観的に聞くことができます。この距離感が、「自分の考えの甘さ」や「意外な可能性」に気づかせてくれます。
  • 感情のラベリング
    不安や焦りといった漠然とした感情も、「資金繰りへの恐怖」や「部下への期待と失望」といった具体的な言葉にすることで、その正体が明確になります。感情に名前をつける行為は、それだけで感情の波を鎮め、冷静な分析を可能にすることが心理学的に知られています。

聞いてもらうことの力(聞き手の役割)

しかし、このプロセスが最大限の効果を発揮するためには、ただ話すだけでは不十分です。聞き手である「壁」の質が決定的に重要となります。

ここで、20世紀の臨床心理学者カール・ロジャーズが提唱した、カウンセリングにおける3つの核となる原則が、理想的な壁打ちの条件として浮かび上がってきます。

  • 無条件の肯定的関心(どんなあなたも、まるごと受け止める姿勢)
    聞き手は、あなたの話す内容を、良い・悪い、正しい・間違っているといった評価のフィルターを通さずに、ありのままに受け入れます。どんな突拍子もないアイデアも、どんな弱音も、どんな矛盾した感情も、まずは「そう感じているのですね」と受容されます。
    このジャッジのない空間こそが、思考を深めるための「安全な場所」となり、あなたが安心して本音を語ることを可能にします。これは、「がっかり壁打ち」における「ジャッジ役」への完璧な解毒剤です。
  • 共感的理解(あなたの世界を、あなたのように感じようとする姿勢)
    聞き手は、あなたの立場に立ち、あなたの見ている世界を、あなたの目を通して見ようと真摯に努力します。それは「可哀想に」という同情ではなく、「あなたがそう感じるのは、こういう背景があるからなのですね」という、深いレベルでの理解の試みです。
    この共感的な姿勢によって、話し手は「この人は本当に自分のことを分かってくれようとしている」と感じ、より深い自己開示へと進むことができます。
  • 自己一致(誠実で、裏表のない姿勢)
    聞き手は、聞き手自身の感情や思考に対しても誠実です。分からないことがあれば「今のお話は、こういう理解で合っていますか?」と正直に問いかけます。この真摯で透明な態度が、話し手との間に揺るぎない信頼関係を築きます。

これらの3つの条件が満たされた対話の場は、経営者にとって極めて稀有な体験となります。なぜなら、それは「心理的安全性」が完全に担保された空間だからです。

心理的安全性とは、組織行動学者エイミー・エドモンドソンによれば、「こんなことも知らないのか(無知だと思われる)」「こんなこともできないのか(無能だと思われる)」「和を乱すな(邪魔をしていると思われる)」「ネガティブなことを言うな(ネガティブだと思われる)」という4つの対人関係上の不安から解放されている状態を指します。

考えてみてください。社長という立場は、この4つの不安と常に戦う宿命にあります。「無知だ」と思われまいと知ったかぶりをし、「無能だ」と思われまいと無理を重ね、「邪魔だ」と思われまいと異論を飲み込み、「ネガティブだ」と思われまいと口をつぐみます。

経営者とは、周りのために心理的安全性を「創り出す」役割を担う一方で、自らがそれを「享受する」機会をほとんど持てない存在なのです。

だからこそ、ロジャーズの3原則に則った「壁打ち」は、単なるコミュニケーション技術以上の意味を持ちます。それは、普段は他者のために創り出している「安全な場所」を、経営者自身が体験する、心が休まる場所となるのです。

そこで初めて、経営者は評価の恐怖から解放され、純粋な思考と内省に没頭することができるのです。

ビジネスの課題を超えて、人生の目的と向き合う

質の高い「壁打ち」がもたらす効果は、目先のビジネス課題の解決に留まりません。

その対話は、静かな夜のリビングやオフィスであなたを苛む、より根源的な問いへと自然に導いていきます。

それは、会社の貸借対照表(バランスシート)を超えた、あなた自身の人生にとってのプラスマイナスと向き合うプロセスです。

「何をすべきか」から「なぜ、それをするのか」へ

対話は多くの場合、「何をすべきか」という具体的なビジネス上の問いから始まります。「この新規事業を立ち上げるべきか?」「この社員をどう育成すべきか?」

しかし、評価や判断のない安全な空間で思考を巡らせるうち、対話の焦点は自然と「なぜ、それをするのか」という、より本質的な問いへと深化していきます。

「そもそも、私はこの事業を通じて何を成し遂げたいのか?」「私は、どのような人生を築きたいのか?」「この仕事は、私の価値観と本当に一致しているのか?」

具体的な変化の事例

この深い内省の旅が、どれほど人生を変える力を持つか。研究の中に散りばめられた経営者たちの体験談が、その軌跡を雄弁に物語っています。

  • ある経営者は、壁打ちを通じて、自分のリーダーシップが長年「威圧」に基づいていたことに気づかされました。部下を追い詰め、孤立していた彼は、対話を通じて他者と心から繋がる新しい方法を学び、自信とやる気を取り戻しました。
  • また別の経営者は、対話の中で、すっかり忘れていた過去の成功体験や豊かな経験を掘り起こされました。それは、一人では思い出すことのなかった記憶でした。そのプロセスを通じて、彼は「自分の人生も捨てたもんじゃない」と心から感じ、自己肯定感を取り戻し、人生を変える大きなきっかけを掴みました。
  • 雇われ社長になったある人物は、「社長」という肩書きや周囲の期待に縛られ、「このままでいいのか」という違和感を抱え続けていました。彼はすべてを手放し、自分自身と向き合う時間を持つことを決意しました。その過程で真の天命を見出しました。肩書きという役割を脱ぎ捨てた先に、純粋な「誰かを救いたい」という想いだけが残り、彼自身が救われたのです。

弱さを見せる勇気が、本当の強さにつながる

「弱さを見せる」という行為が、変革の出発点になることが多いです。

現代のリーダーシップ研究の第一人者であるブレネー・ブラウンは、「弱さは、無力さではない。それは、不確実性、リスク、そして感情の露出に直面する『勇気』の尺度である」と述べています。

安全な場所で自らの弱さ、不安、迷いを言葉にすることは、責任を放棄することではありません。それは、自らが完璧ではない人間であることを認める、最も誠実な行為です。

この行為を通じて、経営者は重圧から一時的に解放され、自らの人間性を取り戻します。そして、その経験こそが、より強く、しなやかなリーダーシップの源泉となるのです。

強い自分を演じることをやめた者だけが、真の強さを手に入れることができます。

そして、この「人生」を巡る対話は、決してビジネスから逃避するための時間ではありません。それこそが、究極の「戦略的対話」なのです。

なぜなら、一人社長や小規模企業の事業とは、経営者自身の価値観、情熱、そしてビジョンの直接的な延長線上にあるからです。

経営者が燃え尽き、自らの「なぜ」を見失い、偽りの人生を生きていると感じているならば、その事業戦略もまた、場当たり的で、恐怖に根差し、短期的なものにならざるを得ません。

逆に、経営者が深い対話を通じて自らの人生の目的と再び繋がり、情熱を取り戻した時、事業戦略は自然と再構築されます。

事業は、もはや人生を犠牲にするためのものではなく、人生の目的を実現するための「手段」となります。だからこそ、自らの人生について語るための時間を確保することは、経営者が行いうる、最も重要かつ根本的な戦略策定なのです。

重荷を軽くするための、最初の⼀歩

ここまで、孤独とプレッシャーを抱える経営者の構造的な現実、身近な人々がその悩みの受け皿になり得ない理由、そして思考を整理するための「壁打ち」という対話が持つ変革的な力について探求してきました。

この種のサポートを求めることは、決して失敗の告白ではありません。それは、会社にとって最も重要な、代替不可能な資産――すなわち、経営者自身の精神的な明晰さ、回復力(レジリエンス)、そして目的意識――に対して行う、最も賢明な戦略的投資です。

それは、一人で戦うことをやめ、支援されるリーダーへと進化するための一歩なのです。

では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。

具体的な次の一歩

1. 自己との対話:最初の対話相手は、あなた自身

まず、一人で静かに自問する時間を作ってみてください。以下の問いは、あなたの内なる対話の出発点となるでしょう。

  • 「もし、あと1年しか生きられないとしたら、今の仕事の何をやめて、何を始めるだろうか?」
  • 「心の底から情熱を感じることは、一体何だろうか?」
  • 「5年後の理想の自分から、今の自分へアドバイスを送るとしたら、どんな言葉をかけるだろうか?」

これらの問いにすぐに答える必要はありません。ただ、問いと共に過ごす時間が、あなたの心の奥底にある本当の願いを浮かび上がらせます。

2. あなたの「壁」を見つける:求めるべきは、正しい種類の対話

次に、あなたの思考を安全に、そして誠実に反射してくれる「壁」を探す旅に出ましょう。重要なのは相手の肩書きではなく、対話の「質」です。

ソエルコトもあなたのお力になれます。壁打ちでも、コーチングでも、コンサルティングでも、あなたに必要な役割で対話させていただきます。

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この記事の監修者・著者

2006年に起業。合同会社を設立するも2年後に株式会社へ組織変更。社員2人〜4人の小さな会社を5年間経営後、一人会社・一人社長へ。一人社長歴15年。

ソエルコト(一人会社・小さな会社の社長さんの経営パートナー)、マナブコト(習い事教室・学習塾の生徒募集)、ホームページ作成教室など、様々なスモールビジネスを展開中。一人会社・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富で、日本全国にクライアントがいます。

大変なこと・辛いことをたくさん経験してきた小さな会社の社長として、一人社長を長くやってきた先輩として、そして一人会社研究家として、お役立ち記事を監修・執筆しています。

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