共同経営の教科書|トラブル予防と円満解決の全知識

共同経営 社長ブログ
この記事を書いた人

2006年に合同会社アルクコト設立。2008年に株式会社アルクコトに組織変更。現在は一人会社・一人社長で、様々なスモールビジネスを展開中。

自身の20年間で築き上げたマーケティングスキル・Web制作スキル、AIスキルに加え、一流マーケターや一流コンサルタントのノウハウ・成功例・幅広い知見で構築した第二の頭脳(セカンドブレイン)を活用していることが強み。

「集客の仕組み化」と「話を聴くこと」が得意で、一人会社の社長さん・小さな会社の社長さんの支援実績も豊富。

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はじめに:なぜ「共同経営」を選ぶのか?

新しい事業を始めるとき、多くの人が「共同経営」という選択肢を検討します。一人ですべての責任を負うのではなく、信頼できるパートナーと一緒にビジネスを立ち上げるスタイルです。

この選択の裏には、お金やスキルといった実務的な理由と、精神的な安心感を求める心理的な理由があります。

実務的なメリット

共同経営を選ぶ大きな理由の一つは、リソースを効率的に集められる点にあります。

  • 資金力アップ
    複数人で資金を出し合うことで、自己資金の負担を減らし、より多くの資本金でスタートできます。これは、銀行などからの融資を受ける際にも有利に働きます。
  • スキルの補完
    例えば、営業が得意な人と技術開発が得意な人が組めば、お互いの弱点をカバーし、それぞれの得意分野に集中できます。これにより、事業全体のクオリティとスピードが格段に上がります。
  • 人脈の拡大
    経営者が増えれば、その分、人脈も広がります。事業の初期段階では、この人脈が顧客獲得や事業拡大の鍵を握ることも少なくありません。

心理的なメリット

「経営者は孤独だ」とよく言われますが、その精神的な負担は想像以上に大きいものです。

  • 相談相手の存在
    重要な判断を迫られたとき、同じ立場で相談できるパートナーがいることは、精神的な支えとなり、冷静な判断を助けてくれます。
  • リスクの分散
    失敗したときのリスクや責任を一人で抱え込まずに済むという安心感は、起業への一歩を踏み出す上で大きな後押しとなります。

しかし、皮肉なことに、共同経営を魅力的に見せるこれらの要素、つまり「お金の共有」「責任の分担」「緊密な協力関係」こそが、後に関係をこじらせ、事業を失敗に導く最大の原因にもなり得るのです。

この記事では、共同経営で成功するためのポイントと、避けては通れないトラブルの予防・解決策について、専門的かつ実践的な視点から徹底的に解説します。

よくある共同経営トラブルとその原因

共同経営がうまくいかなくなる原因はさまざまです。お金の問題から、経営方針の対立、そして人間関係のもつれまで、その構造を詳しく見ていきましょう。

1. お金のトラブル:最も多く、最も根深い問題

共同経営で最も起こりやすく、関係を根本から壊しかねないのがお金に関するトラブルです。

利益や給料の「不公平感」

トラブルの中心にあるのは、「自分の頑張りに見合った報酬をもらえていない」という不満です。共同経営者は、自分の貢献を大きく、相手の貢献を小さく見てしまう傾向があります。

たとえ利益を完全に折半したとしても、「自分の方が長時間働いている」「この契約を取ってきたのは自分だ」といった気持ちが、不公平感につながります。

特に、売上を直接作る営業担当と、社内を支える管理担当との間で、貢献度の評価をめぐる対立は典型例です。

経費の使い方と公私混同への不信感

何が事業に必要な経費か、という価値観の違いも摩擦を生みます。

一方のパートナーが使った高額な交際費が、もう一方には「会社の金の無駄遣い」と映り、私的流用の疑いにまで発展することがあります。

出資金や借入金の清算

事業をやめる、あるいは一方が抜けるとなったとき、最初に出したお金や、会社名義で借りたお金の返済問題は、最大の火種となり得ます。

特に会社の経営が苦しい状況では、責任のなすりつけ合いが始まり、泥沼化しがちです。

2. 経営権のトラブル:「平等」が招く経営マヒ

パートナーと対等な関係を築こうとして選択した「平等」な力関係が、逆に経営を機能不全に陥らせることがあります。

出資比率50対50のワナ

出資比率や議決権を50:50にすることは、一見公平に見えますが、実は最悪の選択肢の一つです。

重要な経営判断で意見が真っ二つに割れた場合、どちらにも決定権がないため、何も決められない「デッドロック」状態に陥ります。

変化の速いビジネスの世界では、この停滞が命取りになることもあります。

経営方針のズレ

事業を始めた当初は同じ夢を見ていたはずが、時間が経つにつれて目指す方向が変わってくることは珍しくありません。

一方は急成長を目指して利益をどんどん再投資したい、もう一方は安定した生活のために配当を重視したい、といった具合です。

「何のためにこの事業をやっているのか」という根本的なビジョンのズレは、修復が難しい亀裂を生みます。

責任の所在が曖昧に

それぞれの役割と責任の範囲がはっきりしていないと、失敗が起きたときに誰も責任を取りません。

売上目標が未達だったり、プロジェクトが失敗したりした際に、明確な責任者がいないため、パートナー間で責任のなすりつけ合いが始まります。

この問題は、特に業績が悪化したときに表面化し、互いへの不信感を増幅させ、組織を内側から壊していきます。

3. 人間関係のトラブル:信頼が不信に変わるとき

ビジネス上の対立は、やがて個人的な感情のもつれに発展し、人間関係そのものを破壊します。

仕事の負担の偏り

一方のパートナーばかりが長時間働いていたり、精神的なプレッシャーが大きい業務を担っていたりすると、同じ給料では強い不満が生まれます。

「自分だけが損をしている」という感情は、日々のコミュニケーションをギスギスさせます。

コミュニケーション不足

関係が悪化すると、率直な対話が失われます。重要な情報が共有されなくなり、会話は事務連絡だけ、あるいはトゲのあるものになります。

このコミュニケーション不足が、小さな誤解を解決不可能な大問題へと育ててしまうのです。

「友人・家族だから」が危ない

ハーバード大学のノーム・ワッサーマン教授の研究によると、驚くべきことに、友人や家族で始めた会社は、他人同士で始めた会社よりも不安定で、失敗しやすいというデータがあります。

なぜなら、友人関係や家族関係を壊したくないという気持ちが強すぎるあまり、業績の悪化や戦略の不一致といった、ビジネスに不可欠な「耳の痛い話」を避けてしまうからです。

問題が起きるからではなく、問題を「手遅れになるまで放置する」から失敗するのです。

これは、親しい人と起業を考えている人にとって、非常に重要な教訓です。

4. 日本特有の問題:「和」と「忖度」の落とし穴

共同経営のトラブルには、日本ならではの文化的な背景が影響していることもあります。

「和を以て貴しとなす」の弊害

表面的な調和を大切にする「和」の文化は、ビジネスにおいては弱点になり得ます。

意見が対立したときに、本質的な解決に必要な、率直で時には厳しい議論を避ける傾向があるためです。

心の中では反対でも、その場の空気を読んで賛成してしまうことで、問題は先送りされ、不満だけが静かに溜まっていきます。

「契約書は水臭い」という考え方

特に親しい間柄では、細かい契約書を作ることを「相手を信用していない証拠だ」と捉える文化的な傾向があります 。

「同じ釜の飯を食う仲間」という意識から、性善説で事業を始めてしまうことが少なくありません。

しかし、この口約束だけの関係は、創業当初の熱が冷めたとき、いかにもろい土台であったかを思い知らされることになります。

「忖度」が生むすれ違い

言葉にしなくても相手の意図を汲み取る「忖度」の文化は、明確な意思確認を怠る危険性をはらんでいます。

自分では「当然共有できている」と思っていた目標が、実はパートナーとは全く違っていた、という事態は、危機が訪れて初めて明らかになります。

こうした文化的背景は、前述のワッサーマンのパラドックスと相まって、リスクをさらに高めます。

つまり、良い関係を続けたいという思い(=対立を避ける行動)が、皮肉にも関係そのものを壊す原因になってしまうのです。

5. トラブルはいつ起きるのか?

共同経営のトラブルは、特定のタイミングで表面化しやすい傾向があります。

魔の2~3年目

多くの共同経営は、創業から2~3年で最初の大きな壁にぶつかると言われています。

事業開始当初の興奮が落ち着き、日々の運営の厳しさや、お互いの働き方、仕事への熱量の違いといった現実的な問題が見えてくる時期です。

業績悪化という引き金

事業が順調なうちは、多くの問題は隠れたままです。

しかし、業績が悪化し、資金繰りが苦しくなると、それまで溜まっていた不公平感、責任問題、方針の違いといったあらゆる不満が一気に噴出します。

責任のなすりつけ合いが本格化するのは、決まってこのタイミングです。

開業直前の対立

意外なことに、トラブルは開業直前の準備段階で起こることも少なくありません。

店舗の内装、ブランドイメージ、最後の設備投資など、後戻りできない重要な決断を迫られる中で、意見の食い違いが深刻化することがあります。

これらの分析から言える重要なことは、「完全な平等」を目指すことが、かえって失敗を招くという事実です。

成功する共同経営は、役割や責任の違いを認め、最終的に誰が決定するのかというルールを明確にした、お互いが納得済みの「不均衡」な構造の上に成り立っているのです。

だからこそ、出資比率を50対50ではなく、あえて51対49にするといった選択が、重要な意味を持つのです。

失敗確率を劇的に下げる!「共同経営契約書」作成の鉄則

共同経営が成功するかどうかの9割は、事業を始める前の「設計」で決まると言っても過言ではありません。

その設計図の核となるのが「共同経営契約書」です。これは単なる事務的な書類ではなく、二人の関係を守るための憲法であり、将来のトラブルを防ぐ最強の「お守り」です。

1. なぜ「口約束」ではダメなのか?

「言った、言わない」の水掛け論は、契約書なしの共同経営が失敗するときの典型的なパターンです。

人の記憶は曖昧で、特に揉め事が起きると、自分に都合の良いように過去の約束を解釈しがちです。

契約書を交わすことは、相手を疑っているからではありません。お互いの意思を明確な形で記録し、共通の認識を持つための、信頼の証なのです。

契約書がないと、万が一裁判になった場合、「そもそも私たちは何に合意したのか?」という根本的な部分を証明するために、膨大な時間とお金を費やすことになります。

2. 共同経営契約書に絶対に盛り込むべき必須項目

共同経営契約書は、インターネットで探したテンプレートをそのまま使えばよい、というものではありません。

パートナーと時間をかけて、事業で起こりうるあらゆる場面を想像しながら、一つひとつ話し合って作り上げるべきものです。

【基本事項:誰が、何のために】

  • 事業の目的
    この会社を通じて何を成し遂げたいのか、その目標を具体的に言葉にします。ここでの認識がズレていると、すべての対立の元になります。
  • 出資について
    誰がいくらお金を出したのか(現金だけでなく、不動産や特許などの現物出資も含む)、そしてそれに応じて会社の所有権(株式や持分)をどれくらいの割合で持つのかを厳密に記載します。

【運営ルール:どうやって進めるか】

  • 役職と役割分担
    CEO(社長)、CTO(技術責任者)といった役職を決め、それぞれの具体的な仕事内容と権限をはっきりさせます。これにより、「誰の責任か分からない」という事態を防ぎます。
  • 意思決定のルール
    全員の同意が必要なこと(例:会社の売却)と、多数決で決められることを区別します。
    そして最も重要なのが、意見が対立した場合に最終的に誰が決定するのか(例:出資比率51%のパートナーが決める)を定めておくことです。これが、経営がストップしてしまう「デッドロック」を避ける唯一の方法です。
  • 給料と利益の分け方
    各パートナーの役員報酬やボーナスの基準、そして利益が出た場合にいつ、どのように分配するのかを決めます。不公平感をなくすため、単なる出資比率だけでなく、それぞれの役割や責任の重さも考慮して決めると良いでしょう。

【もしもの時のルール:辞めるとき、終わるとき】

  • 脱退・解任のルール
    パートナーが事業から離れるときの手続き(例:何か月前に伝えるかなど)を定めます。これは見落とされがちですが、非常に重要な項目です。
  • 株式・持分の買取ルール(バイセル・アグリーメント)
    パートナーが辞めたり、亡くなったり、あるいは解任されたりした場合、その人が持っている会社の株式や持分を、いくらで、誰が買い取るのかを決めます。
    評価方法(例:会社の純資産額や売上を元にした計算式、第三者機関の査定など)や支払い方法(一括か分割か)を具体的に定めておくことが、まさに「ビジネスにおける婚前契約」となり、将来の泥沼の争いを防ぎます。
  • 競業避止義務
    辞めたパートナーが、すぐに同じような競合ビジネスを始めることを一定期間禁止する取り決めです。
  • 紛争解決の方法
    万が一トラブルになった場合、どのように解決するかをあらかじめ決めておきます。いきなり裁判に訴えるのではなく、まずは調停(ADR)で話し合う、といった条項を入れておくと、時間と費用の節約になります。

これらの項目を網羅した、契約書作成のためのチェックリストを用意しました。ぜひ活用してください。

カテゴリ必須条項ここで決めるべきこともし決めなかったら…
基盤事業目的私たちのビジネスのゴールは何か?経営方針がズレて、進むべき方向を見失う。
出資(資本構成)誰が、何を、いくら出資したか?所有権が曖昧になり、貢献度をめぐる争いが起きる。
運営役割分担と権限誰が、何に対して責任を持つのか?責任のなすりつけ合いが始まり、仕事に漏れやダブりが出る。
意思決定プロセス意見が割れたとき、最終的に誰が決めるのか?何も決められず経営が停滞し、ビジネスチャンスを逃す。
報酬・利益配分給料や利益は、どんな基準で分けるか?「自分だけ損している」という不公平感が募り、やる気がなくなる。
離脱脱退・解任ルールどんな条件でパートナーは辞める(辞めさせられる)のか?突然の離脱で経営が混乱。問題のある人が居座り続ける。
持分/株式買取(Buy-Sell)辞める人の持ち分は、いくらで、どうやって買い取るのか?買取価格をめぐって泥沼の争いになり、事業の継続が困難になる。
有事競業避止義務辞めた後、ライバル会社を始めてもいいか?顧客やノウハウが流出し、会社の土台が揺らぐ。
紛争解決方法トラブルが起きたら、まず何をするか?いきなり裁判になり、多額の費用と長い時間がかかる。

もしトラブルが起きてしまったら?円満解決への道筋

どんなに万全な準備をしても、トラブルが起きてしまうことはあります。

そのときは、感情的になるのを避け、冷静に、そして戦略的に解決策を探ることが重要です。

ここでは、そのための具体的な方法を段階的に解説します。

1. まずは「話し合い」での解決を目指す

どんなトラブルでも、最初のステップは、公式な話し合いの場を持つことです。感情的な非難の応酬ではなく、「個人」と「問題」を切り離し、問題そのものに集中することが不可欠です。

事前に作成した契約書や、業界の一般的な慣習といった客観的な基準をもとに、お互いが納得できる落としどころを探ります。一つの解決策に固執せず、複数の選択肢をテーブルに並べて検討する姿勢が大切です。

定期的にコミュニケーションの場を設けることが、小さな火種が大きな火事になるのを防ぐ鍵となります。

2. 第三者の力を借りる:法的・制度的な解決策

当事者同士の話し合いが行き詰まったら、中立的な第三者の力を借りることで、事態を打開できる可能性があります。

ADR(裁判外紛争解決手続):裁判よりも穏便な解決策

ADRとは、裁判所の法廷ではなく、中立的な専門家(調停人など)のサポートを受けながら、話し合いで紛争解決を目指す手続きのことです。

  • メリット
    裁判に比べて、「早く」「費用が安く」「非公開で」進められるという大きな利点があります。特に手続きが非公開であることは、会社の評判やイメージを守る上で非常に重要です。また、白黒つける裁判とは違い、お互いが納得できる柔軟な解決策を見つけやすいのも特徴です。
  • 手続きの流れ
    まず、当事者の一方がADR機関(弁護士会が運営する紛争解決センターなど)に申し立てます。相手が話し合いに応じれば、手続きがスタートします。中立な調停人が双方の言い分をじっくり聞き、合意形成の手助けをします。ここで合意した内容は、法的な拘束力を持つ和解契約として書面に残すこともできます。

弁護士への相談と法的措置:最後の手段

相手が話し合いに全く応じない、あるいは契約違反といった悪質な行為がある場合は、弁護士に相談し、法的な手段を検討する必要があります。

  • 弁護士の役割
    弁護士はまず、内容証明郵便で請求書を送付することが多いです。これを受け取った相手が、事の重大さに気づき、話し合いに応じるケースも少なくありません。それでも解決しない場合は、契約違反を理由とした損害賠償請求の裁判や、取締役の解任請求、会計帳簿の開示請求といった法的手続きに進むことになります。
  • 裁判(訴訟)
    これは最も時間と費用がかかり、関係性を決定的に壊してしまう可能性のある選択肢です。最後の手段と考えるべきでしょう。判決は公開の法廷で下されるため、会社の内部情報が公になってしまうリスクも伴います。

3.【ケーススタディ】実際の裁判例から学ぶ、3つの教訓

過去のトラブル事例は、リスクを具体的に理解するための貴重な教材です。

ケース1:あなたは「経営者」?それとも「従業員」?(美容院A事件)

共同経営者の一人が、役員として登記されていなかったために、業績悪化を理由に給料を一方的に大幅カットされました。

裁判所は、彼の実態は「労働者」であると判断し、会社に未払いの給料を支払うよう命じました。

教訓:会社が好調なときはパートナーとして扱い、不調になったら従業員として扱う、といった都合の良い解釈は通用しません。役職や役割は、登記などで法的に明確にしておくことが極めて重要です。

ケース2:契約書がなくても「共同経営」と見なされる(病院共同経営事件)

医師2名が口約束で病院を共同経営。一方が辞める際に財産の分配で揉めました。契約書はありませんでしたが、裁判所はその実態から法的な「組合(共同事業体)」であると認定。

一人の名義になっていた不動産も「共同の財産」とみなし、清算・分割を命じました。

教訓:法律は、書類の有無だけでなく、関係性の「実態」を見て判断します。個人名義の資産だと思っていても、法的には共同財産と見なされるリスクがあることを知っておくべきです。

ケース3:「言った、言わない」の泥沼(契約書なしのトラブル)

ある事業が、共同経営だったのか、それとも単なる業務委託だったのか。契約書がなかったために、両者の主張は真っ向から対立し、深刻な争いに発展しました。

教訓:これこそ、契約書の重要性を物語る典型例です。契約書がないために生じた「事実の空白」は、多額の裁判費用をかけて埋めるしかありません。

これらの裁判例のポイントを以下の表にまとめました。

事件のポイント概要法的な争点裁判所の判断私たちが学ぶべきこと
美容院A事件役員登記されていない共同経営者が、一方的に報酬を減額された。共同経営者は、法律上の「労働者」にあたるか?労働者としての側面を認め、減額分を未払い賃金として支払うよう命じた。全員の役割と法的な立場を登記などで明確にすること。報酬の変更は必ず書面で合意すること。
病院共同経営事件医師2名が共同で病院を経営。一方が脱退し、財産分与を求めた。口約束の共同経営は、法的な「組合」と認められるか?事業の実態から「組合」であると認定。個人名義の不動産も共有財産とみなし、売却して分けるよう命じた。関係性の「実態」が法的な評価を決める。財産の所有名義と実質的な所有関係は一致させること。
契約書なしのトラブル共同事業か業務委託かをめぐり、契約書がないため主張が対立。当事者間の法的な関係は何か?契約書がないため、証拠をもとに事実関係を一つひとつ認定する必要が生じ、紛争が長期化・複雑化した。すべての合意は書面に残すこと。口約束はトラブルの元である。

4. パートナーシップの「終わり方」:株式・持分の買取交渉

共同経営を解消する際、最も難しいのが、一方がもう一方の持ち分(株式など)を買い取る際の価格交渉です。

買取交渉の実際

  • 買取の発生
    契約書で定めた条件(辞任、契約違反など)に該当した場合、買取プロセスが始まります。
  • 価格の評価
    ここが最大の難関です。契約書に評価方法を決めていなければ、当事者間で話し合って決めるか、第三者の専門家(税理士など)に評価を依頼する必要があります。注意すべきは、評価の基準となるのは、前の決算時の数字ではなく、売買を決めた時点での会社の資産状況であるという点です。
  • 交渉と実行
    価格に合意できたら、正式な株式譲渡契約書などを交わし、名義変更の手続きを行います。
  • 強制的に買い取る権利
    契約書(株主間契約など)で事前に定めておけば、特定の状況下でパートナーに持ち分の売却を強制したり(コール・オプション)、逆に自分の持ち分を買い取らせたり(プット・オプション)する権利を設定できます。
    こうした取り決めがない場合、特に非上場会社では、少数株主が株を売りたくても買い手が見つからず、事実上「塩漬け」になってしまうリスクがあります。

おわりに:それでも共同経営に挑むあなたへ

共同経営は、多くの落とし穴がある、非常に難易度の高い経営スタイルです。

しかし、そのリスクを正しく理解し、適切な準備をすれば、一人では決して見ることのできない景色にたどり着ける、強力なエンジンにもなり得ます。

この挑戦に臨むすべての経営者へ。

「前向きな悲観主義者」であれ

常に最高の結果を信じて全力を尽くす。しかし、同時に最悪の事態も想定して備える。これが共同経営における最も重要な心構えです。

成功しているパートナーほど、関係が良好な創業期にこそ、あえて「もしも別れることになったら」というタフな話し合いをしています。

契約書は、二人にとっての「地図」である

時間をかけて作り上げた共同経営契約書は、将来の争いのための武器ではありません。

それは、あなたとパートナーがこれから進む長い旅路を照らす、共有の「地図」であり「羅針盤」で、事業の成功のためにできる最も価値のある投資の一つです。

専門家の力を借りることをためらわない

すべてを自分たちだけでやろうとしないことも大事。

早い段階で専門家の助けを借りましょう。弁護士は法的にしっかりとした契約書作りを助けてくれますし、税理士や会計士は透明性の高いお金の仕組み作りをサポートしてくれます。

これはコストではなく、事業の未来への投資です。

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